2008-01-21

裁判リテラシー講座第三回 控訴? 上告?(1)>

第一回 第二回 第三回 第四回 第五回

コンセプトは、ニュースなんかで裁判の話が出たときに、そのことをきちんと理解して、

その内容を適切に評価する能力の涵養、です。

控訴?上告?

よく、誰それが判決を不服として控訴した、上告したというニュースを聞くことがあります。

ご存じの通り、我が国では裁判について三審制度が設けられ、公開の法廷で3回の審判を受ける権利が保障されています。

第一審で負けたとしても、「私はあと2回変身を残しています」てなわけです。

ここまでは公民の教科書に載っていることです。

ですが、控訴・上告(併せて上訴と呼びます)によりどのように審理が行われ、

その結果どうなるのかについてはあまり知られていません。ここらへんについて解説してみようと思います。

長くなってしまったので、今日控訴についてだけお話しします。

控訴の手続

第一審の判決を不服とする当事者は、控訴することが出来ます。

一方が控訴する場合もありますし、双方が控訴することもあります。

控訴には法定された理由が必要ですが、そこまで厳しくはありません。

控訴するには原判決から二週間以内に第一審裁判所に申し立てすることが必要です。

この期間内に控訴されない場合は、第一審の判決が確定します(再審の道は残ります)。

ところで、民事では裁判を起こすのに、裁判所に印紙を納めなければなりません。

しかしなんと、控訴する場合には、第一審で払った印紙の1.5倍をさらに上積みしなければなりません。

印紙代は訴訟で問題にするモノの額に応じて決まりますので、高価なモノの訴訟では控訴費用もバカになりません。

そして、訴訟費用は敗訴すると返ってきません。

朝鮮総連関連の事件では、モノが一等地の不動産なため控訴費用が莫大なので控訴を断念したとか。

訴訟費用は訴訟要件なので、これもアホくさい訴訟を防止するためです。

控訴を断念といえば、ミラーマンも一度刑事控訴を断念していましたね。

あれは罰金刑だったからでしょう。

金銭的なコストもかかりますが、もちろん時間的なコストもかかります。

判決が確定しなければ刑は始まりませんから、未決のまま時間が過ぎゆくことになります。

だったら、ちょっと罰金を払って手打ちにする、というのも訴訟戦術としては間違ってはいません。

まあその後「控訴すれば98%勝てる」とか嘯いてたのが痛いですが。

このように、控訴するかしないかについても、コストや勝訴可能性を考えて戦略的に決定しなければなりません。

控訴審の審理

さて、控訴という用語は刑事民事共通ですが、その審理のやり方については異なります。

審理の方式にはどのようなモノが考えられるでしょうか。

まずは、第一審をご破算にしてもう一度証拠資料を収集して判断するという方式。これを覆審主義といいます。

戦前刑事はこれを採用していたと言われますが、これだと第一審が無駄なっちゃいますよね。

次に、証拠資料の追加を認めず、原判決と同じ証拠資料を用いて、第一審判決の当否を審査する方式。これを事後審主義といいます。

今日刑事ではこれが採用されています。言うなれば写真判定みたいなもんでしょうか。

証拠資料を後々にも出せるとすると、審理が長引いてしまう(=勾留の期間が長くなってしまう)からです。

しかし、硬直的に過ぎるので、やむを得ない場合には新証拠の提出を認めています(実務上この例外が原則化しているようですが)。

そして、これらの中間に位置する続審主義というのもあり、これは民事で採用されています。

第一審を引き継ぎ、さらに新たな証拠資料を補充して第一審判決の当否を検討するもので、

要するに、第一審の延長戦ということです。

いずれにせよこのようにして控訴審では第一審のように証拠調べ・事実認定を行うことになります。

第一審・控訴審のことを事実審と言ったりしますが、このことを指しています。

これに対して、次回で紹介する上告審法律審と言います。

控訴審判決

このように審理された結果出る判決にはどのようなものがあるでしょうか。

まず、民事では控訴が不適法だった場合には控訴却下判決、理由がない場合には控訴棄却判決となります。

刑事ではいずれも控訴棄却判決となりますが、明白に不適法な控訴の場合は控訴棄却決定となります。

刑事控訴棄却と言ったときは判決か決定かを確認してみましょう。

また特殊な例ですが、控訴審で改めて審理した結果、実は控訴した人にとってより不利な結論となってしまう場合があります。

500万円の貸し金返還請求で、

第一審では、内200万円はすでに返済されている、だから300万円返還せよという判決だったのに、

控訴審で、「やっぱ500万円全部返済されてたわwww理由ねーじゃんww」というような場合です。

あるいは、無期懲役は長すぎると控訴したのに、「やっぱ死刑ねお前」と言われる場合です。

このような場合、裁判所がそうに違いないと確信したとしても、控訴棄却としなければなりません。

これを不利益変更禁止の原則といいます。控訴した人は、第一審判決よりも不利な判決を得ることはないということです。

この原則がないと、第一審よりもひどい判決が出ることを恐れて誰もが控訴敬遠するようになり、

三審制度が名ばかりのモノに成り下がってしまいます。特に刑事では人権問題になってしまいますね。

前回言ったちょっと特殊といったのはこのことです。理由があるのに棄却となるっていう。

えー、そんなの不当じゃない、と思われるかも知れません。しかし、この批判は当たりません。

もう一方も控訴していれば、転んでも泣かない、なんでもありのガチンコルールに戻るからです。

控訴に理由がある場合は、原判決を破棄しなければなりません。条文では正義に反する場合、なんて言ってます。

この場合、控訴審裁判所は、自判するか第一審に差戻しするかを迫られます。

三審制度を保障するためには、差し戻して、審理が尽きていない部分についてもう一度審理することが求められます。

他方、訴訟が長くなると不利になるし、このままでも十分裁判できるという場合もあります。

この二つどちらにするかは、控訴審裁判官に委ねられています。

なお、破棄差し戻しがあった場合には、差し戻された裁判所はその破棄の理由に拘束され、逆らうことは許されません。

このことは上告審でも同じなので、

例の山口母子殺人事件では差戻し控訴審では、死刑にしろっていう無言の圧力が掛かっていることになります。

今日の大事なところ

控訴審は、事実認定の出来る事実審。

民事は延長試合(続審主義)、刑事は手続が長引いてしまうので写真判定(事後審主義)。

民事の控訴費用は高い。刑事も未決のままの時間が延びる。控訴するかしないかは戦略的に判断。

双方が控訴していない限り、控訴した人に不利益判決は出ない。

判決を破棄した場合は自判か差し戻しか、裁判官に委ねられる。

差戻し判決には拘束力がある。

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