裁判リテラシー講座を書いてた者です。
グリーンピース・ジャパンという環境保護団体が、西濃運輸の配達中の荷物を無断で抜き取ったのが話題になっています。
この行為には何罪が成立するのでしょうか。そもそも犯罪なのでしょうか。
なお、グリーンピース・ジャパン当人は、「違法性については判断できない」とコメントしていますが、
裁判所が判断すべき事項だと言ってるのなら当然です。
ドラクエで言えば「大魔王からは逃げられない」と言ってるくらい当たり前の話で、何の法的意味も持ちません。
当協会としては違法性はないと思ってると言っているのなら噴飯モノです。
ここで、グリーンピース・ジャパンの顧問弁護士は「不法領得の意思がないから無罪だ」といっています。
この反論を踏まえながら検討してみたいと思います。
刑法を紐解いて見ますと、235条に窃盗罪が定められています。
窃盗罪が成立するには、i.他人の財物を、ii.窃取することが必要です。
このように、条文上現れる犯罪の要素を「構成要件」と言います。
構成要件は、基本的に客観的に定められたもので、法がこのような行為をした者に違法性・有責性の推定を与えたものです。
ようするに、「こういう行為した奴は正当防衛とか意思無能力とかの特別の事情がない限り処罰しちゃうよ?」ってなわけです。
これを構成要件の違法性有責性推定機能とか、構成要件は違法行為を類型化したものだとか言います。
今回の事例ではi.については疑いようがないでしょう。
ii.の窃取とは、所持者の意思に反して自己の占有下に置くことをいい、無断で抜き取りという態様を考えれば当てはまると言えます。
しかし、解釈上、iii.「不法領得の意思」が必要だとされていて、学会の通説でもあり、最高裁の判例も取るところとなっています。
「不法領得の意思」とは、判例上、「権利者を排除し他人のものを自己の所有物と同様に、その経済的用法に従いこれを利用し又は処分する意思」とされています。
簡単のために前半を権利者排除意思、後者を利用処分意思と言ったりもします。
では、そもそもなぜこのような意思が必要とされるのでしょうか。
上記のi. ii.だけでは絞り込みが足りないからなのです。
i. ii.だけだと、たとえば、無断で一時的に自転車を借りて元に戻した場合でも窃盗罪になってしまいます。
彼が盗んだのは、自転車を利用するという利益であって財”物”ではないので、窃盗罪に当たるとするとおかしいことになります。
また、壊すために盗ってきて、実際に壊した場合に窃盗罪が成立してしまうとすると、
器物損壊罪が軽く定められている(3年以下の懲役又は30万円以下の罰金)意味が失われてしまいます。
盗んだものは取り返せるけど、壊したものは戻ってこない。なのになぜ器物損壊罪のような毀棄罪が軽いかというと、
盗むという行為こそ誘惑的で悪性が強く、これを強く禁圧する必要があるからです。
一時利用行為を窃盗から外すために権利者排除意思が、毀棄罪との区別のために利用処分意思が必要となっているのです。
権利者排除意思は、平たく言うと、所有者のモノを自分のモノにしちゃおうという意思です。
自転車の話と同様に、返却すればこれは否定されたかも知れませんが、どうやら彼らは盗んだあげく、返さずにスタッフがおいしくいただいたそうです。
とすると、これは認められるといえます。
利用処分意思は、定義の通りですが、判例上、経済的用法を広く捉えています。
2chなどでもあがっていましたが、女性用下着を男が盗む行為にも利用処分意思を認めています。
下着をアレしたりコレしたりする行為ですら経済的用法に含まれるということです。
そのほかに出てきた例としては、細長いモノを巻き付けるために盗んだ電線を使って巻き付けたというものにも認めています。
彼らは、不正を行っているという証拠物として提出したというのですから、これらと対比しても利用処分意思があったといえるといえます。
食べたというのならなおさらです。
このようにして、弁護士の主張は失当ではないかと思われます。
ネット上の言説を見ていると、これらの二つを混同しているモノがよく見られました。
ですが、これらはまったく別物です。
不法領得の意思は解釈上、「主観的構成要件」と位置づけられるのが一般的です。
客観的なのが構成要件というのが原則なのですが、
先のような不都合から、不法領得の意思をも構成要件としないと構成要件の違法性有責性推定機能が達成されません。
なので構成要件です。
一方故意というのは、「構成要件事実を認識したのに、これに歯止めをきかせず犯罪行為に出たこと」をいいます。
これは、有責性を基礎づける要件なので、構成要件とは区別されるものです。
両方とも主観的要素なので、法律をかじったことのある人間でないとちょっと難しいと思われます。
認識の対象が違うことだけ押さえておけばよいでしょう。故意は構成要件事実、不法領得の意思は上記の二つの意思。
本件では、i. ii. iii.の事実(厳密に言えば因果関係も)を認識していながらあえてやった場合に故意が認められます。
まあ、彼らも分かってやってるでしょうから(刑法でもこういう場合に確信犯といいます)故意は否定すべくもないでしょう。
窃盗が成立するには、i.他人の財物を、ii.窃取し、それがiii.不法領得の意思に基づくことと、それらに故意があることが必要。
弁護士の主張は失当だと考えられる。
故意と不法領得の意思は別物。
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