富。
僕が物心つく頃には、人はこれしか求めていないんだということを薄々と感じはじめていた。
それなのに、向上心を感じられないのはなぜだろう
そんな違和感はどこにいても僕から離れてくれることはなかった。
遠くを目指したい。
そう思ったのはスイスの高校に留学中、先生の授業を聞いていたときだった。
窓にふと目をやると、旅客機が空の青いキャンバスに白のラインを描いていた。
僕には目指すものがない。
すでに生まれた時点で将来が決まっていた。
親を選べなかったように、なりたいものも選べなかった。
家が裕福なおかげで、ほしいものも、やりたいことも不自由なくできていた。
学友に恵まれ、充実した日々は決まっている将来の前ではどこか虚しいものがあった。
彼らは人類が成し得なかった、空を飛ぶという夢を飛行機に託した。
ヒトは、鳥のように大空を羽ばたくことはできないが、ずっと遠くまで飛ぶことのできるものを作ることができる。
将来が決まっていても、何かを作って託すことはできるのではないだろうか。
目指していたのは、ただ遠くどこまでも誰よりもその先。
それは今日まで変わることはなかった。
10月13日、我が国は過去最長の4600kmの飛距離を実現した。
目指していたのは、ただ遠くどこまでも誰よりもその先。
それは今日まで変わることはなかった。