2020-11-21

落とし物、妄想負け犬

「落としましたよ」

そう言って前を歩く男のコートポケットに落とし物をねじ込む。

男はポケットに突っ込んだ手を「熱っ」といって引っ込める。

その落とし物はさっき男がポイ捨てた吸い殻だ。

「おい待てよ。何してくれてんだ」

「お礼は結構ですよ」

「ふざけんな」

男はポケットから取り出した吸い殻を再び道に落として激高する。

「また落としましたよ」

「捨てたんだよ。頭おかしいのか」

「道に捨てるほうがおかしいと思いますよ」

「火傷しただろ。治療費慰謝料払え。あとコート代も弁償しろ

「落とし物を返したあげただけなのに」

けっきょく警官が呼ばれて裁判になって、罪に問われた私は男が請求する費用慰謝料の何分の1かを支払うことになった。

煙草ポイ捨てを目の当たりにするたびに私はこのような妄想をする。

警察が介入せず殴り飛ばされて終わるパターンもある。

どのみちポイ捨て干渉して良い結果を妄想できたことはなかった。

現実の私は気付かれないようにしっかり火を消して吸い殻を拾い、ウェットティッシュにくるんで持ち帰って捨てる。

善行を積んでいるような気にはなれない。

人を咎めることもできず、無視することもできず、妥協としてしぶしぶそれを行っているだけに過ぎないからだ。敗北感。

せめて妄想の中だけでも、勝てないものか。

  • 格闘家ユーチューバーの定番動画の一つやね ポイ捨て注意動画

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん