STAP細胞なんてもう話題にもしたくなかったのに、テレビを見ていた妻が質問するわけよ。
「STAP細胞ってなに?」
「再生医療に使える万能細胞っていうのがすごいというのはわかる?」
「わかる」
「聞いたことはある」
「ES細胞は受精卵を使わなくちゃいけないという点で人の生命とは、という倫理に関わるのでノーベル賞は取れなかったけれど、iPS細胞はそれがないからあっという間に山中教授がノーベル賞を取った、そのすごさはわかる?」
「わかる」
「で、iPSには遺伝子をいくつか導入しなければならず、それによる癌化の懸念などの問題があることと、作成の効率を上げる事などの問題をクリアすべくみな必死になっているわけです。熾烈な戦いだよ。ここまで良いかな?」
「はい」
「ところが簡単に、すごい確率で万能細胞が出来て、しかも遺伝子導入をしなくていいんだよ!って発表したら、インパクトあるよね?」
「すごいよね」
「ところがまず論文に使っている写真が偽物だと直ちに指摘した人がいた。しかも誰も追試が成功しない。どうも怪しい。少なくとも一番の売りである『簡単な』は崩れちゃったわけだなあ」
「もうすごくなくなっちゃったのか」
「それでも真摯に他の科学者がどこからその万能細胞が来たの?って考えたんだけど、少なくともリンパ球が万能細胞に戻ったわけではないよねっていうのはわかったわけ」
「うーん、わかんない」
「そうなんだよな、この辺からわかんないよな。でもこの方法ではストレスで若返ることはない、というのはわかったわけ」
「えーー」
「それでもその細胞からマウスが出来たんだから、万能細胞なんだよ。だからそれは脾臓にある万能細胞なのかなーって好意的に考える人もいたのさ」
「うーん、わかんない」
「そうだよな、わかんないよな。でもさあ、そのもとの細胞が違うマウスの細胞らしいって情報が出てきてからは、『やらかしたな』っていう状態になってきた」
「うーん、わかんない」
「オッケー、君が悪いんじゃない。テレビの人もコメンテーターも、君がうーんわかんない、って言ったぐらいのところからわかってないから」
「そうなんだ、でもなぜあなたがテレビに対しても怒ってるのかはなんとなくわかった」
「そう、でも一般の人はどうして僕らが怒ってるかわかんないでしょ。それに世の中には沢山いい加減な連中もいそうだなって落胆したし。少なくともテレビは見たくないっていうこと。ごめんね」
あんた優しいな いい夫だ
こんな男になら掘られてもいい。あたし女だけど。