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中国からの撤退をちらつかせるグーグルの主張を読むと、最近の中国発のサイバー攻撃と人権活動家の迫害の片棒を担がされたことへのグーグルの怒りがすべてと思うかもしれない。
だがネットの専門家と中国の専門家はともに、より大きな問題について指摘している。すなわち中国政府が軍事的なサイバースパイ戦術を企業対象に流用しており、今やそれがかなり広範囲に使われている、という問題だ。外国企業にとって根本的に不平等なビジネス環境に加え、中国のサイバースパイから受ける損害を考えれば、グーグルのような企業がリスクを考慮して撤退を考えても無理はない。
「問題は単なるサイバー攻撃や人権問題をはるかに超えている」と、中国インターネットの専門家ジェームズ・マルベノンは言う。「外国企業が中国で事業展開するのはますます難しくなっている。特にイノベーション関連企業にとってはそうだ」
グーグルの声明にあるように、他にも多くの企業がサイバー攻撃の標的になっている。マルベノンによれば、グーグルの調査の中でサイバー攻撃を受けたとされている34社はほとんどが中国と取引したり、中国国内で事業を行っているシリコンバレーのハイテク企業。国家権力を使って特定分野の情報を引き出し国内企業を支援するのは、中国政府お決まりの行動だ。
「中国政府は優先する企業をはっきり決めている。その企業は業績を伸ばさなければならない」と、マルベノンは言う。
政府が外国企業に介入し最新技術を中国企業に有利に「分配」することにグーグルが単純にうんざりしている、と見る専門家もいる。その競争相手は中国最大のネット検索企業「百度(バイドゥ)」だ。
「グーグルは中国での自分たちの存在が操られているという認識に到ったのかもしれない」と、米議会が設立した米中経済安全保障再検討委員会のラリー・ウォーツェル副委員長は言う。「グーグルはソフトウェア・コードと技術を失っている。中国政府は百度に勝たせたいと考えている」
技術を盗んで国内企業に与えるために外国企業を中国に受け入れるのが彼らの常套手段だ、とウォーツェルは言う。「国際的な知的財産権への配慮はまったくない。一度技術を手にしたら、技術解析やコピーをして中国企業のために利用する」
最大の問題は、政府と企業を保護する政策も法体系もないこと。増大する中国からのサイバー攻撃へのアメリカの対応は改善されてきているが、ほとんどの場合規模が小さく、しかも遅すぎる。
米軍統合参謀本部のジェームズ・カートライト副議長らは、米政府のサイバー防衛対策をしばしば「機能していない」と指摘。米軍上層部も大量の情報が失われていることを認めている。
オバマ政権はこの問題を何とかすると約束して政権に就いたが、状況はむしろ後退している。昨年5月にネットセキュリティ対策の報告書を発表した後、国家安全保障会議のサイバーセキュリティ担当顧問メリッサ・ハサウェイが辞任。国土安全保障省サイバーセキュリティーセンター所長のロッド・ベックストロムも昨年、国家安全保障局との縄張り争いで辞任した。オバマ政権のサイバーセキュリティを統括するコーディネーターとしてハワード・シュミットが指名されたのは昨年12月だ。
はっきりさせておくが、グーグルは中国政府を直接責めていない。一連のサイバー攻撃が「中国国内から来た」と言っているだけだ。
しかしサイバーセキュリティの専門家アラン・パラーは、グーグルが受けたようなサイバー攻撃は政府が支援していると判断できると言う。たとえあからさまに関与していなくても、その規模の大きさや効率性からそう判断するのが妥当だろう。
パラーの研究では、中国で事業を行うそのすべての企業が活動をモニターされ、外部から自由にアクセスできるソフトを埋め込まれているという。サイバー攻撃の犯人を特定するのは困難だが、米政府や軍事施設に対するここ数年の一連のサイバー攻撃には、中国政府の関与を裏付ける共通のパターンがある。
では中国がこうした戦術を経済スパイの分野に転換したとなぜ言えるのか。イギリスの情報機関MI5(情報局保安部)が、中国政府のサイバースパイ攻撃に注意するよう企業300社にあてて送った警告文が1つの証拠になるかもしれない。「サイバー攻撃の技術がすでに企業スパイの分野に流用されていることをこの警告文は示している」と、パラーは言う。