彼は死神だった、と書けば伝わるだろうか。いや、それでは到底足りないだろう。死という概念が人の形をとったもの、それが彼だった。彼は真顔でそう語った。それは彼がそうではなく、ただ精神の真逆からそのような顔をした、というだけのことだ。死に方も選べないただ死だけに、苦しみを乗り越える過程など存在しなかった。精神病棟での死、身体障害、ptsd。人には自殺以外の選択肢はなかった。死ぬために生きるのではなく、生きる過程で死にゆくことだった。その上でその選択は正しいはずだ。それが死神だなんて正気には信じがたいことだった。