鈴の音を纏うように凛と歩く人だった。顔立ちは美人だった。他は可愛いい人だった。
僕が好きになったその人は、僕のことが好きではなかった。イバラのようなバリアを張った。近づこうと踏み込むたびに、それ以上に遠ざかり、棘が刺さった。
自分から離れる事が出来なかった。近づこうとすることしか出来なかった。離れていくあの人、近づくことはない。今日が残りの人生で一番近くにいられると思う日々だった。
挨拶されるのが嫌だったと、噂する声を聞いた。隣に立っていたら、一歩距離を取られた。そうやって毎日、毎日、何度も心を痛めた。いつも新鮮に、全力で傷ついた。
それが二年続いた。毎日、顔を合わせる。目が合うことはない。毎日、挨拶をする。心が通うことはない。もし一緒にいれたらとても楽しいと思った。楽しいのは自分だけだと思い直した。とても迷惑だったろう。謝罪すらできないけれど。
長い時間をかけて、少しずつ、心が剥がれて、離れて、あの人を考えなくなった。穏やかな日々が戻ったようで、僕はなんだか安心して、はた顔を見つめた。