せっかく天辺まわる前に寝付いたというのに眉間が痒くて目が醒めた。布団を敷いている時に羽音がしたので分かってはいたが、カがいる。
腹立たしくも目が醒めた。起こされたことに、そしてプロ意識のなさに腹が立つ。お前もプロのカなら羽音も出さずに忍び寄り、痒みもなく刺せ。昼頃にようやっと気づくくらいの芸当を見せてみろってんだ。
少し水を飲み、落ち着いているとまたも羽音が聞こえる。壁に小さい黒い点を見つけ、深夜にも関わらず全力で叩く。しかし、渾身の平手は虚しくヤニくさい壁を叩くのみ。また止まった、今度は渾身の左ジャブを叩き込む、が、サンドバッグにするには硬すぎるタンスが左右に揺れただけだった。
俺はもう完全に居直り、布団から抜けてゲームを始め、生活習慣をぶっ壊すことにした。
死体撃ちと屈伸をされるのにも飽きた頃、再び布団に入った。耳障りな羽音が聞こえてきたので左耳を叩いた。布団のあたりに気持ち悪い造形のカが落ちていた。
なんと虚しい結末だろう。あんなに全力を尽くして捉えようとしたカは、無造作で無作法な仕草で戦いは終わってしまった。私は力を求めすぎていたのだ。カなんぞを仕留めるのに力など無用で、肩の力を抜き、風の流れを読み、払うような平手を打てばよかっただけなのだ。