乗り換えの時間ができたので、駅の本屋へ立ち寄る。店に入ると、冷房の冷たい風と本の香り、同時に僕はある若い女性に目を取られる。その人は茶髪を後ろでくくり、麻のようなベージュの帽子と白い薄手のtシャツ を着て、黒い車椅子に座っている。骨折か、それとも足が動かないのか、見ただけでは判別はつかないが、車椅子は車輪を自ら廻して移動する種類のものではなく、右手のレバーで操作できるようなものだった。
どうしてか僕は、その人に話しかけてみたいと思った。恋なのかもしれない。やれやれ、僕はこんな突然一目惚れするような奴だったのか、しかしナンパするような奴でもないぞなどと思いつつ、本屋なので本を物色し始めた。
気がついたらその人は居なくなっていた。
もう二度と会うことはできないんだと感じた。
話しかけておけばよかったと後悔の感情が少しだけ湧いてくるが、すぐに消えた。
そうして僕の短い恋は終わった。