私が中学生なぞといふ職についていた時、放課後の教室でクラスメートと会話に興じて行く中、一人二人と抜けていき、気が付けば私と女子の二人きりとなっていた。普段気兼ねなしに話す間柄なのに、この状況を意識し出し、会話も途切れ途切れとなる。沈黙の中でふと気づくと、彼女はリップステックを唇に塗っていた。それはメンソレータムか何かでお洒落でもなくありふれていたものだけど、当時の私には妙に艶かしく映り、じっと見つめてしまった。そして、ふと彼女と目が合う。私がしまった、と思う間もなく「使う?」と彼女から。私は無言でゆっくりと頷いた。そして手に預けられたそれを口に近づける。高鳴る鼓動とともに頭をよぎる違和感。手を止めて一瞥すると、それは、その違和感は、スティックのりだった。
おーい山田くん、座布団一枚持っていってくれ