「右手のない女に気をつけろ」
最初に聞いたのは私が何年も通ってる行きつけの居酒屋だ。親が店主と知り合いで、そのよしみで格安で利用させてもらっている。
酔っ払った見知らぬおじさんが私に話しかけた。
「例の女に気をつけたほうがいいぞ」
「えっ、なんですかそれ……?」
私は驚いて目を丸めた。
「どうも、とんでもない女らしい。とにかく残忍で、冷酷で、優しさのかけらもなく、周りに迷惑をかける女なんだと」
「そうなんですか……見たことないですね」
おじさんはビールを飲むよう私に促したが今日は後で交際者とデートする予定があったので、腕を振っていらないと言った。
おじさんはビールをグッと飲み、そのままトイレからでなくなった。
店主が言った。
「右手のない女に気をつけろ」
盛り上がったのは言うまでもない。