2015-08-13

ふたりで見上げた夏の夜空

午後8時50分頃に我が家の真上の空を北から南に向かって通過する飛行機がある。

それに気付いたのは、一昨年の夏の夜だった。

風呂上り暑いので家の外に出て認知症の母と一緒に椅子に座って涼んでいたときに気付いたのだった。

北の空を見ていたら、小さな光の点滅が段々こちらに向かって近づいて来る。

そしてその光の点滅は次第に大きくなり、飛行機の形が確認できるころには腹の部分を真下に向けて

我が家の上空を通過して行くのだ。

そのころはまだ母の認知症は軽かったので、俺が飛行機を指さして

「あっ、飛行機が家の真上を飛んでいるね」

と言うと

「うん。飛行機飛行機

と嬉しそうに笑っていた。

暑い日が続いて毎日、俺たちはふたり一緒に夜空を見上げてその見事な真上ぶりに感心していた。

「びっくりするくらい真上だね」って笑い合った。



そんなことをすっかり忘れていた今日施設の母の面会から帰って家の車庫から出てきたときに上空に飛行機の音がした。

見上げたら見事に我が家の真上を通過しているところだった。

腕時計を見たら午後8時51分。

あの時の記憶がパーーっとよみがえって来て胸がキュンとした。

もう、母はあのとき記憶もない。



もし母が死んでもあの飛行機は何事もなかったようにあの時間我が家の上空を飛んで行くんだろうな。

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