パチンと高い音をたててぶどうが3等分された。なんで丸々ひとつ食べれないの? なんで3等分されるの? そう思いながら食べた。
もう25年も前の話だ。
丸々一つも食べれない理由が、親になった今なら分かる。ぶどうは3つ入って安くても300円する。姉妹弟3人で1つずつ食べたら一気に無くなる。そりゃ親も三等分する。今なら分かる。
でもあの頃は分からなかった。だから3等分されて小さくなったぶどうを1粒ずつ大事に食べた。その視界に伸びてくる腕。父だった。父は毎回私の好物を横から奪う。
「ひとつ、ちょ~だい」
「やめてよ、私のぶどうなのに」
父は私の皿から何個もぶどうを取った。幼い私はそれが本当に嫌だった。嫌いというレベルを超え、理解できない!と益々父から遠ざかった。
あれから25年。いとしい息子の皿上に乗ったぶどうに、私も手を伸ばす。
「ひとつ、ちょ~だい」
息子はぶどうが大好きだ。
「やめてよ、ママ嫌い」
そんなやり取りをしてる横から父の手が伸びる。
「ママもじぃじも嫌い!」
ついにぶどうを抱えて息子が逃げ出した。笑いながらじぃじとなった父が追う。皿からコロコロと落ちるぶどうを見ながら思う。
話しかけたくて、近づきたくて。でも何もできなくて、私の皿からぶどうを取ったのだ。
落ちたぶどうを拾いながら、息子に近づいた。
「ねえ息子くん、お母さんに落ちたぶどう頂戴?」
息子は満面の笑みで答えた。
「いいよ。一緒に食べよう。じぃじも!こっちにもあるよ」
口に運んだぶどうは25年前より、甘く感じた。