2012-08-28

時のぶどう

 パチンと高い音をたててぶどうが3等分された。なんで丸々ひとつ食べれないの? なんで3等分されるの? そう思いながら食べた。

 もう25年も前の話だ。

 丸々一つも食べれない理由が、親になった今なら分かる。ぶどうは3つ入って安くても300円する。姉妹弟3人で1つずつ食べたら一気に無くなる。そりゃ親も三等分する。今なら分かる。

 でもあの頃は分からなかった。だから3等分されて小さくなったぶどうを1粒ずつ大事に食べた。その視界に伸びてくる腕。父だった。父は毎回私の好物を横から奪う。

ひとつ、ちょ~だい」

「やめてよ、私のぶどうなのに」

「お、もう1つ取れちゃうな、あははは」

 父は私の皿から何個もぶどうを取った。幼い私はそれが本当に嫌だった。嫌いというレベルを超え、理解できない!と益々父から遠ざかった。

 あれから25年。いとしい息子の皿上に乗ったぶどうに、私も手を伸ばす。

ひとつ、ちょ~だい」

 息子はぶどうが大好きだ。

「やめてよ、ママ嫌い」

 そんなやり取りをしてる横から父の手が伸びる。

「息子君のぶどう、貰っちゃうもんね~」

ママもじぃじも嫌い!」

 ついにぶどうを抱えて息子が逃げ出した。笑いながらじぃじとなった父が追う。皿からコロコロと落ちるぶどうを見ながら思う。

 父は不器用なりに、私と話したかったのだ。

 話しかけたくて、近づきたくて。でも何もできなくて、私の皿からぶどうを取ったのだ。

 落ちたぶどうを拾いながら、息子に近づいた。

「ねえ息子くん、お母さんに落ちたぶどう頂戴?」

 息子は満面の笑みで答えた。

「いいよ。一緒に食べよう。じぃじも!こっちにもあるよ」

 口に運んだぶどうは25年前より、甘く感じた。

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