これは彼が全国各地の家庭に眠っているタンス貯金をくすね始めて幾分か経過し、その総額がついに1億円に達しようかとする頃の話である。
彼の名前はカズヤ、一見すると何の変哲もないごく普通のサラリーマンだった。しかし彼には誰にも言えない趣味があった。それは、夜遅くに民家に侵入し、タンスの裏に隠された金をこっそり手に入れることだった。また彼の目的は自分の金銭欲を満たすことではなく、彼なりの歪んだ正義感のためだった。
「世の中に潜む闇を私が暴いてやる」カズヤはそう呟き、独自のルールに従って行動した。彼は豪華な家、特に自己中心的と評判の家主の住宅を選んで忍び込み、そのタンスの奥からくすねた札束をポケットに押し込んだ。
ある夜、彼がターゲットとしたのは、市議会議員増田の豪邸だった。豪邸の持ち主である増田は、表向きには社会に対して美徳を語りながらも、裏では様々な不正行為を働いているというウワサが立っていた。カズヤはそんな彼の貯金を盗むことで鼻っ面をへし折り、自分なりの正義を実現させようと企んでいた。
カズヤが増田の家へと忍び込むと、予想を超えるほどの金額が隠されていた。彼は目を丸くし、手にした札束を夢中でカバンに詰め込んだ。しかしその瞬間、後ろから低い声が聞こえてきた。
「何をしているんだ、君は?」
カズヤが振り向くと、そこには全く知らない小柄の中年男が立っていた。顔立ちは美しくないがキリッとした痩せ型の男だった。カズヤは瞬時に逃げようとしたが、男は彼の腕を万力のような力でぐわしと掴み、微笑んで言った。