RPGはゲームの中の役になりきって遊ぶというのがその本来の定義である。数あるRPGの中でもドラゴンクエストシリーズはこの原義に則り、主人公=プレーヤー、という構図が忠実に守られているゲームの一つである。
ゲーム内での仲間というのは、さながら友達のようである。しかし、ゲーム内の家族となると、それは微妙な位置にあることになる。自分の家族ではないのにゲーム内で家族として振る舞うキャラクター。下手に扱うとプレーヤーにどうしようもない違和感を与え、主人公とプレーヤーを乖離させかねないこの『家族』、特に『親』を、ドラクエシリーズではどのようにあつかっているのか、簡単に考えてみた。
この記事はシリーズのネタバレしまくりなので、どうかご注意いただきたい。
主人公自身の出自が明確ではなく、親は陰も形も出てこないので問題無し。
主人公の父がシリーズ初登場。だが、特に父親らしい振る舞いをする訳でもないので、その存在に違和感を感じるようなことはあまりない。
主人公の母はいつも主人公の帰りを待っていてくれていることから、プレーヤーはこの『母親』からある程度親しみをじることができる。「お友達も泊まって行ってくださいね」という台詞も個人的にポイント高い。そして最初の王への謁見イベント以外では特に親であることを強調したイベントはないので、その存在にそう違和感を感じることはない。
主人公の父にはすぐに会うことはできないが、ことあるごとに人々からその偉大さについて聞かされ、興味や関心が湧く。そしてエンディング間近のオルテガの死のイベントで、やっと会えたのに…、と残念に思った人は多いだろう。こうした衝撃的なイベントであっても、それまでの伏線の張り方の秀逸さのおかげで主人公とプレーヤーの心情が大きくかけ離れることはない。
余談ではあるが、エンディングでギアガの大穴が閉じてしまったとき、私は真っ先にアリアハンで一人家を守っている『母』のことを考えてしまった。考えてみると、これは相当すごいことだと思う。
この作品では主人公に両親は居ないということになっている。もしかしたら、という人は居るが、それは本当に匂わせるだけのことであり特にイベントが用意されている訳ではない。
しかし下手にイベントにしてしまうと、主人公とプレーヤーに突然の『親』の登場による違和感を感じさせたり、あまつさえ主人公が妙に親になつく様な流れになったとしたらプレーヤーが置いてけぼりになる可能性が大きかったと思う。この程度の描写で想像の余地を残すにとどめたのは正解だったと思う。
ドラクエシリーズの中で一番家族の陰が濃いのは間違いなくこの作品だろう。幼い主人公を最後まで守ってくれた父、自分が妻に選んだ女性、いつの間にか大きくなってしまっていた子供たち、父と自分とでずっと探し続けていた母、全員に思い入れが出来るように巧妙にイベントが配置されている。
例外と言えるのが突然成長した姿で現れる子供たちかもしれないが、しかしここでプレーヤーが子供の存在に違和感を抱いたとしても、ストーリー上主人公もまた自分を父と呼ぶ子供たちに似たような違和感を感じたはずである。
また、妻を選べるのも大きなポイントである。もし話の流れ上強制的にビアンカと結婚することになっていたら、主人公とプレーヤーの心情はかけ離れてしまうことになっただろう。選択肢は二択だったとしても、自分で選んだ、という点が重要なのだ。
ゲーム内の『親』に対する違和感をある意味一番上手くみせているのはこの作品だと思う。この作品では3や5のように『親』に対して思い入れを作るようなイベントは用意されていないが、主人公の両親、特に母は主人公の親らしく振る舞うことになる。この突然の『親』っぷりに違和感を感じたプレーヤーは多いと思うが、しかしそれは完全に家族の記憶を取り戻すことが出来なかった主人公もまた同様に感じた違和感なのであり、切なさを非常に上手く演出していると思う。
フィッシュベルに住む主人公の両親は、基本的に3の主人公の母的な存在である。父親はたまに漁に出ているものの、帰れば二人とも家に居て、主人公を普通に迎えてくれる。そして特に大きくイベントに関わったり主人公に干渉してくるようなことはない。特に親子関係を強調してくることもないがそれゆえ大きな違和感も感じない、そういうタイプの親である。
そして7の場合、主人公の両親と思われる人々がもう一組居る。しかし彼らに関してはドラクエ4的な方式がとられている。あくまでも関係を匂わせるだけにとどめ、やはり親子関係を強調したイベントはない。こうすることでプレーヤーに違和感を抱かせることなく親を描写している。
この作品中に登場する主人公の家族は祖父のみである。両親は既に亡く、彼らについての話は祖父やその他の人々から聞けるのみである。両親のことを全く知らない主人公と、同じく『両親』のことを全く知らないプレーヤー。この両者がこれらの話を聞いて抱いた感想はやはりそう大きく離れたものにはならないだろう。
そして主人公の祖父の登場の仕方であるが、結構細かい伏線が張ってあり、また要所要所で彼に親しみを感じるようなイベントも用意されている。それらがあった上での満を持しての登場であるから、本当に上手く出来ている。
しかし今回こうしてまとめてみて、ドラクエシリーズは本当に丁寧な世界観を作っているものなのだな、思った。それは別に壮大な世界観ではなく、そこに居る、と感じられる世界観である。特に全世界を回ることが出来る様なRPGの場合でそうした世界観を表現するにあたって、主人公が天涯孤独でない限り家族の描写に関する問題は避けられない。が、その扱いは上手くやらないと主人公とプレーヤーの意識を乖離させかねない。しかしここに述べたように、ドラクエシリーズはその点本当に上手いと思う。