「千代子が僕の所へ嫁に来れば必ず残酷な失望を経験しなければならない。
彼女は美しい天賦の感情を、あるに任せて惜しげもなく夫の上に注ぎ込む代わりに、
それを受け入れる夫が、彼女から精神上の営養を得て、大いに世の中に活躍するのを唯一の報酬として夫から予期するに違いない。……」
要するに、「世の中に持てはやされたところで、どこがどうしたんだ」という文明批評が、女には通じない、
<高等遊民>の根拠が、女には理解できないということだろう。
年がゆけば、学問をすれば、見識を拡めれば、そうでなくなる筈だが、漱石は、女はそうはなりっこないと思い込んでいるふしがある。
どんな時代になっても女は世の制度に従う存在で、文明批評的見識を身につけることはありえないと思っている。