2022-06-18

青い手

悪魔って見たことある?」

 夏の日のバス停で、僕(私)はベンチに座っていた。

 視線ゆっくりと上げると、そこには少女が微笑んでいる。顔立ちの整った少女で、笑うとどこかしら邪悪に見える。高台にある病院バス停前だと、尚更邪悪に見えた。

 木漏れ日の落ちるバス停には、今のところ僕と彼女以外の乗客はいない。僕は膝元に置いてあった本を閉じる。

 そして首を振った。

「ふうん」

そもそも君は誰なのさ」

 僕は少女の顔を胡散臭そうに見つめる。

 少女は僕の質問に答えずに、ベンチの上に視線を落としていた。「悪魔の話しようよ」

 僕(俺)は観念して、「見たこと無い」と言った。少女悪魔的に笑った。

「私も見たことない」

「ふうん」

「でも、悪魔がどんな顔をしてるのかは分かるんだ。ねえ、どんなだと思う?」

 僕は首を振る。

 少女はししし、と笑った。

「手だよ」

 僕は一瞬少女が何を言っているのかが分からなくなる。

「手?」

「手。悪魔は手なの、指なの」

 何を言ってるのか分からなかったので、僕は首を傾げる。「困ってるねええ」と少女は笑みを深めていた。

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん