夏の日のバス停で、僕(私)はベンチに座っていた。
視線をゆっくりと上げると、そこには少女が微笑んでいる。顔立ちの整った少女で、笑うとどこかしら邪悪に見える。高台にある病院のバス停前だと、尚更邪悪に見えた。
木漏れ日の落ちるバス停には、今のところ僕と彼女以外の乗客はいない。僕は膝元に置いてあった本を閉じる。
そして首を振った。
「ふうん」
「そもそも君は誰なのさ」
僕は少女の顔を胡散臭そうに見つめる。
少女は僕の質問に答えずに、ベンチの上に視線を落としていた。「悪魔の話しようよ」
僕(俺)は観念して、「見たこと無い」と言った。少女は悪魔的に笑った。
「私も見たことない」
「ふうん」
「でも、悪魔がどんな顔をしてるのかは分かるんだ。ねえ、どんなだと思う?」
僕は首を振る。
少女はししし、と笑った。
「手だよ」
「手?」
「手。悪魔は手なの、指なの」