2019-03-27

南の島で死ぬと言った彼女

 昔、浮き草のような身を流れにまかせ南の島にぽつねんと僕はいた。空と波とバナナの木。フランス人ダイバーひねもすのたりの時を過ごし夜に潜み大きな海老をつかまえて日々の糧とし、新月漆黒サトウキビ畑には放たれた山羊の声。三歩すすんで二歩さがるカメレオン

 引き波と干渉し、はるか頭上にせり上がり一気に落ちるショアブレイクの浜をカメレオンのように歩み僕は彼女と会った。まるでカメレオンのように歩む二匹のカメレオン。波間に漂い、ブレイクする波のフェイスの縁に輝く太陽を見、ブレイクする波のシャワーにかかる虹を見、波間に漂い二匹のカメレオンは語る。三歩すすんで二歩さがりながら語る。さがることはやめようと思うの。三歩すすんで私は今ここにいるの。ブレイクしないうねりは水の丘。大きな丘を越えたのに二匹のカメレオンはどこにもすすんでいない。過ぎて崩れてシャワーとなるのは丘の方だ。今、私はここにきて、ここにいるの。ぽかりと波間に顔を出し、ひとふりしたした髪のしずくが僕にかかるほどの近さで、私はここで死ぬの。

 二歩さがった僕は今、ここでこうしてこんなことを書いている。彼女死ぬまでに時はまだ幾ばく、否、もう幾ばくも、否。

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