格好悪い男の話。
なんで生まれてきたのか、よくわからないその男は、いつも女の後ろに隠れている。
一緒に生まれてきた女はたくましく、迷いなく、快活な部類に入る、と思われている。
男は女を頼りにしており、いつも後ろに隠れている。
何かいうのは女に任せて、一人でうつらうつらしながら、一人で物思いにふける。
女が時折疲れて、あるいは遠出をすると、男はのそのそと前に出てきて物言う役目を変わる。
女は後ろでしくしくと泣いている。
男は女を慰めたりはできないので、ただ女の気がすむまで泣くのに付き合う。
女は男を頼りにしない。できない。戦うのは女の役目だ。
だってこの男は格好悪いし、意気地がないし、外に出ようとしない。
けれどこの男がいないと、女は自分がなんなのか、てんでわからなくなってしまう。
男が本を読んでいて、山手線にはねられてたまたま生き残った若者が、自分が投げた石にたまたま当たって死んだいもりについて述べた話をみつけた。
たまたま女に生まれて、ただそれだけで、意味などなく、果たすべき使命とやらは毛頭なく。
ぼんやりそんなことへ思い至りながら、男はまたうつらうつらした。
相変わらず女は男の前にいて、男の億劫な物言いを代わってやっている。
男は女の後ろに隠れて、有象無象を面倒くさげに眺めている。
格好悪いその男は、けれど女の後ろにいなくてはならない男なのだ。
格好悪いと女に思われながらも、女が自分を見失わないためには。