2023-11-07

同僚の話

結婚している同僚がいた。

しかし彼は所帯持ちであることを公言しながらも妻についてのことは一度も口にしたことがなかった。

そこで何度目かの飲み会の席で、俺は思い切って聞いてみた。

すると彼は酔いが覚めた様子でもごもごと喋ることを渋り、俺は酔いに任せてさらに聞いた。

彼は口篭るように「各家庭にはそれぞれの不幸がある、といったのはゲーテでしたかね?」と云った。

要領を掴めず話を促すと、彼は淡々としゃべり始めた。

彼の奥さんは、芸能人に例えると広瀬すずに似ているらしい。

とても美人で、性格も良く、料理も旨い。

そんな完璧超人のような奥さんがいるとはと驚き、今度会ってみたいなと軽い気持ちで呟いた。

すると同僚は「そうです、そういうことなんです!」と身を乗り出して俺に迫った。

気性の荒いところを初めて見たので驚き「お、おう…」と生返事を返すと同僚はため息を吐いた。

この話をすると必ず会わせてくれって言われるんです、と同僚は云う。

俺は慌てて否定した。

別にとって喰おうってわけじゃない。ただ一目見てみたいだけなんだ、と。

実際邪な気持ちはなかったし、というか人の奥さんを狙おうなんていう不届きな社会人現実にそう居ない。

なんてことを言いたいんですよね?と同僚は俺の心を読み取ったかのように云い、俺は目を瞬いた。

気付くと俺は眠っていて、酔いつぶれたらしい。

夜中に目が覚めげーげー吐き、便座に座った時に顔を上げ自宅に居ることを知った。

翌週、同僚は涼しい顔をして俺に挨拶をすると耳元でささやいた。

「覚えていますか?」と彼は云った。

俺は新しいワイシャツを着ていた。

それは糊がきいて、パリッとしていた。

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