2013-05-16

株式会社渡邊抹殺

「や、やめてくれ! 俺が何をしたというんだ!」

「理由は一つ。お前が渡邊からだ。お前には死んでもらう」

彼は株式会社渡邊抹殺社員日本から渡邊抹殺することを仕事としている。

といっても、命を絶つわけではない。特殊な道具によって渡邊渡辺に変えるだけだ。上司から紹介された渡邊のもとに向かい、力づくで渡辺に変える。それが仕事だ。

「おい、お前が渡邊だな。残念だが死んでもらう」

「ち、違う! 俺は渡邉だ!」

「ええい! 同じことだろうが!」


「見つけたぞ渡邉!」

「や、やめてくれ! 俺は渡邊じゃない! ほら、しんにょうの点の数が違うだろう?」

「お前のような奴がいるか名前登録が面倒になるんだ! 死ね!」

「ぎゃあああ! 戸籍登録と印鑑登録をやり直さなきゃいけなくなるぅぅ!!」



最初渡邊抹殺が登場したとき賛否両論だった。「全部『辺』に統一されれば書くのが楽になる」「外字を作る仕事が減ってしまう」「いちいち外字登録しなくてもよくなった」「印鑑を作る仕事が減ってしまう」などなど。

しかし、世論はおおむね肯定的だった。簡単な登録ならともかく、正確な感じを書くことが求められる行政の書類は異体字が多いほど面倒だからだ。社員である彼もそう考えていた。


ある夜。彼は夜道で怪しげな道具を持った男たちに狙われた。


「な、なんだ? 抹殺された渡邊か? 逆恨みはやめろよな」

「我々は斎藤抹殺カンパニーだ。お前は悪くないが死んでもらうぞ、斎藤

「ち、違う! 俺は斎藤ではなく齋藤だ!!」


元ネタ:誰しもそうだけど、俺たちは就職しないとならない/秋田禎信

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん