農業は現在の人口増加を生み出した最も重要なテクノロジーだ。ジャレド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』によると、農業は現在のイラク近辺メソポタミアの肥沃三日月地帯で生まれたとされる。しかしメソポタミア人はこの画期的なテクノロジーを生み出したにも関わらず、その農業のための行き過ぎた灌漑によって自然を破壊し、現在に至るまで作物一つ作れない荒野を生み出してしまった。
現在の私達の豊かな文明はこのメソポタミア人が負った莫大なリスクの上に成り立っている。
私達は常に現在を特別な物として考える。そのために現在が時代の分岐点であり、現在は過去に例を見ない最大な危機が迫っていると思いがちだ。しかし歴史を見ると人類の歴史は常に危機との戦いであり、現在が特別だという訳では無い。私達は数十年どころか何千年にわたり荒野を生み出す自然破壊をすでに犯しておりその上で繁栄を築いた。繁栄は常に犠牲と引き換えにある。
私達の選択のうち何が正しいかは、今の私達が死んで何年も経ってからようやく歴史が示す。原子力も今まで何度も繰り返し私たちに与えられたリスクとチャンスの一つに過ぎない。私達日本人が、短期的な恐怖心に駆られる事なく、長期的視野に立ち子孫のためにテクノロジーとつき合って行く事を願う。