私、ネットに繋がらない体質なんです
確かに彼女はネットに繋がらなかった。ぽくの持っていたスマホを渡しても、それが彼女の手の中にある限りはネットに接続できないのだ。Wikipediaなしで生きてきた彼女は色々なことを記憶していた。ぽく達は個々の事実を記憶したりしないけれど、彼女は実によく覚えていた。歴史や文化、人名や住所、電話番号、物理定数に至るまで…。まるでひとつひとつの時間を大切にしているみたいに。ぽくは彼女に夢中になった。彼女の話を聞くのが大好きだった。ぽくは彼女とホームシアターでYouTubeを見るのが大好きだった。彼女もそうだったと思う。
あるとき共産党の人がうちに来て、全てを持ち去ってしまった。彼女も、財産も、ぽくは全て失ってしまった。でも、彼女との思い出は奪われなかった。ぽくは毎晩彼女のことを思い出している。ネットに残っていない彼女のことを、ぽくは一生忘れないのだと誓った。