ボクのお父さんお母さんがくれるパンは、いつも味気なかったのだ。
今となっては、あの二人もおいしいパンの作り方を知らなかったんだな、ってわかるんだけど、ボクがそれに納得できるようになるのはまだ先の話。
でも、友達のおいしそうなパンを欲しがることはできなかった。それはボクのためのパンじゃないからね。
ああ、おなかが空いた。
おいしくないパンしか食べてなくても死にはしないけど、でもおなかがいっぱいになることもなかったんだ。
だからボクは、おいしいパンを自分で作れるようにならなきゃ、って思った。
なんせ食べたことがないから、何をどうしたらおいしいのかさっぱりわからない。
出来上がるパンはどれもおいしくなくって、ボクはおなかを空かせるばかりだった。
そしてある日、限界がきた。
そうしたら。
ボクのためにとてもおいしいパンを作ってくれる人が現れた。
その人のパンは本当においしくておいしくて。何もかも飲み込んでしまいそうだった僕のハラペコがすっかりいっぱいになってしまったんだ。
そしてそれから、ボクも少しはおいしいパンを作れるようになってきたのだ。
ボクはあの人に出会えなければ、一生おいしいパンを知らないままだっただろう。