さりさり、さりさり
美容師が首筋で髪を切る音が少し怖かった。そのすぐ近くには頸動脈が。手が滑れば命が奪われる距離に尖った剃刀の刃が存在している感覚。さり、とひとふさ髪を断つと手で掬われる。
「これで宜しいでしょうか?」
あくまで同意の上でやっている事だと、指示の通りだと再認識させられる。肯定すれば手はまた作業に専念する。行ったり来たり何往復も繰り返して時々首をそれが掠める。息を飲む。目を瞑る。パラパラと足元に黒い毛束が散乱していく。椅子の上から逃げられない。その内鼓動が早鐘を打つ。さりさり。緊張を気取られぬよう自分の手を握り締める。ドクドクと脈が波打つ。
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