愛読書を売る、それは過去を捨て去るような心地だ。世間ではこれを断捨離と呼ぶ。
麻紐で雁字搦めにされた書物の山。紐解かなければ物語はもう誰の目に触れる事もない。燃やせば、その分のスペースが出来る。人生と同じ。誰かが消えればそこに誰かが入り込む余地が生まれる。私が愛したのは埃に塗れた、小汚い書籍達。私と共に歩んだ書籍達。今はもう心躍らせる事はない、そう思い込みたかった。
二度と思い出す機会はない?そんな筈はない。何故なら同じ物が書店で売られているのだ。印刷の色鮮やかさが何度でもノスタルジアに私を捉えて離さない。捨てて進むも、抱えて進むも同じ事。だけど一度触れてしまったのならその記憶は捨てる事が出来ない。