■忘れるということを思い出す
飼っていた猫が死んでもうしばらく経つ
猫は晩年、鼻炎を患っていて、くしゃみをしてはありとあらゆる場所に鼻水を飛ばしていた
猫が死んだあと、もう新たに汚されることも無いのだから部屋を掃除しようと思ったのだけれど、
あちこちについている鼻水の、どれもがあの猫の残した痕跡だと思うと、拭き取ることができなかった
今日、久しぶりに大掃除をして、ずっと拭けなかったそれを拭き取った
途中まではそれがあの猫の鼻水だということも思い至らず、ただ無心に床をこすっていた
ああそうだ
こうやって私は感情を忘れていくんだ
今までにも何度も、たくさんの感情を忘れてきた
生の鋭利な感情が消えた後には、おだやかな記憶だけが残る
そうだ忘れるってこういうことだった
お前がいなくなったときは、あんなにも悲しかったのにね
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