幼いころ喘息を患っていた。息苦しくて眠れない夜が続くこともよくあった。呼吸の不調は胸を凹ませ背筋を曲げ、手足をこわばらせて頭を地につけさせる。寝床に張り付く一匹の団子虫のような姿勢にならざるおえなくなる。
発作が軽いときは本にしがみつくようにして児童文学の本を読むこともできたが、本当に酷いときは何もできず弦楽器のような自分の奇妙な呼吸を聴くことしかできなくなる。
そんなときには時折、目覚めながらにして夢を見ることもある。
私の意識は身体から地面へと染み出して、地中へと徐々に降りてゆく。身体は変形して一匹の鯨となり鳴き声を挙げる。息苦しさは夜空の雲に頭痛は星の瞬きに変わる。宙空にはこれまでに読んだ本の主人公が馬を駆って旅をするのがみえる。そうしてゆくうちに私の意識は地中奥深くの地下水脈のようなものにつきあたり、徐々に五感が遠のいていく。
そうなるともう安らかな眠りにつけるようになる。
ぜんそくに悩まされることがなくなって随分経つが、その夢は未だにおぼえている。