2010-05-17

猫の話

やっとびっくりした気持ちが落ち着いたので書いてみようと思う。


福島田舎集落に住む僕のばあちゃんは、猫を飼ってる。

もうすぐ30になる僕がものごごろつく頃には、

ばあちゃんの家にはいつでも2~3匹(ときにはもっとたくさん)の猫がいた。

数年前にじいちゃんが死んで、今ばあちゃんの家族は猫だけだ。

僕の両親は、同県内、ばあちゃんの家から車で2時間くらいの場所に自宅を持っている。

ここ2年ぐらいは一人暮らしのばあちゃんを心配して

月に2回程度ばあちゃんの家に行っているらしい。

長男の僕は東京ニート色違いみたいなことをしてる。

母とばあちゃん(嫁姑だ)は、小町で見かけるような嫁姑戦争はしてないけど、

「すっごく仲がいい」とは言えない。

でもまぁあたらず触らずの関係を築いているようだ。

母はよくばあちゃんについての愚痴を言う。

僕はそれをきいて育ったから、ばあちゃんを心から好きかって言われると、

僕と常識が違うなって思うことがあるけど、

なんたってばあちゃんの家には猫がいる。

僕は飼ったことはないけどネコが好きだ。

だから猫が好きなばあちゃんも好きだ。

母は猫があまり好きではないらしく、

(原因は子供の頃いとこの家に泊まった時、いとこの家の猫が母の布団におしっこをして、

それを母のおねしょとされたことだと言っていた。僕はそれを信じていた)

ばあちゃんちの猫ともあんまり仲良くしようとしなかった。

でも、テレビ写真の猫を見て「かわいい」と言ったり、

猫をモチーフにした雑貨を作ることもあって、

僕にはそれがちょっと不思議だった。


昨年の夏、母と電話で話していたら、ばあちゃんちの猫の話になった。

「また妊娠したらしいのよ」

両親がばあちゃんに旅行にでも行かないかと打診したら、

猫が妊娠しているから行けないと断られたらしい。

猫を飼っているといっても、地域猫とイエネコとの中間みたいな飼い方だし、

そもそも小さな集落ペットのお医者さんなんていない。

ばあちゃんは車の運転はできず、街まで買い物に行く時はご近所さんのお世話になってるぐらいだ。

去勢? なにそれ? チンコとる? かわいそうじゃんなんでそんなことすんの』な世界だから、

当然妊娠もする。

子猫は親猫が根性で産む(普通のことだろうけど)。

子猫楽しみだねー」

「全然楽しみじゃないわよ。またどれが親だなんだって適当な話し聞かされんのよ…」

母は憂鬱そうだった。

そこで僕は少し気になった。

ばあちゃんの家では何度か子猫が生まれている。

でも里子に出したという話は聞いたことがないような気がした。

田舎のことだし、自然地域猫野良猫になっているんだろうか。

僕は猫好きだけど猫を飼ったことはないし、詳しいことがよくわからない。

「そういえば生まれた猫ってどうしてんの?」

母は沈黙した。

「? 誰か引きとってくれてんの? それとも自然にいなくなったり死んじゃったり?」

「違うわよ!」

母は叫ぶようにいった。

「生まれたら川に流してんのよ!」

今度は僕が絶句する番だった。

「ちこちゃん、ちこちゃんなんて言って可愛がってるのに」

「あれが父親だー、子どもできたんだーなんていってさんざん可愛がって人に言っておいて」

「生まれてしばらくしたら家の前の川に捨ててんのよ!?」

「お母さんもう、お腹のおっきな猫を見たら気分が悪くなちゃうの」

「理解できない」

母はしばらくひとりで話し続けた。

僕はあ、う、とか声を出すことしかできなかった。

「あー、あんたにはずっと黙ってたのに、ついに言っちゃったわ!

その日、他に何を話したのかもうほとんど忘れてしまったが、

「ちゃんとご飯食べなさいよ」「服もまともなもの買いなさい」といつもの忠告をくれ、

そして母は「ごめんね」と言った。それで通話は終わった。

あれから約10ヶ月がたった。

子猫が生まれたのかどうか、母は話してくれなかった。

お盆にも正月にもGWにもにもばあちゃんの家に行ったが、

子猫の気配はなかった。


そういえば僕が子どもの頃、一度ばあちゃんちの家の前の川が大増水して、

2階建てのばあちゃんちの1階が半分ぐらい水に浸かったことがある。

子どもだった僕はには正確なところはわからないけど、

結構な被害があったようだ。

当日は母方を含む親戚総出の救援部隊が組まれたほどだった。

川は今ではすっかり整備されて、いつも低い水位で静かに流れている。

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