2009-03-05

[][]デフレ脱却にマイナス金利政策検討を 深尾光洋

日本経済新聞 2009年3月3日 一部抜粋

深尾光洋

デフレ経済の下では、金利が低くても貸し倒れリスクのない現金政府の信用に裏打ちされた預金国債などを保有するインセンティブ(誘因)が強まる。物価が下落している状況では、地価、株価は下がるが、現金価値が低下しない。このため、設備投資住宅投資が低迷し、現預金の保有が増加する。

金融政策面では、日銀がさらに量的緩和企業債務の直接買い入れを進めることで、ある程度は景気を下支えできるが、効果は限定的である。巨額赤字を抱える財政にも景気を支える余力はあまり残っていない。為替相場の円安誘導についても、海外景気が好調だった03-04年とは異なり強い非難を浴びる可能性が高く、採用は無理だろう。


では全く打つ手がないのか。そこで今後検討が必要と思われるのが、金利マイナスにすることの是非である。

もちろん、短に日銀マイナス金利銀行企業お金を貸し出しても、銀行貸出を拡大させる効果はあまりない。これは現金という安全資産が大量にあるからだ。銀行日銀からマイナス2%でお金を借りられるのであれば、日銀から借りられるだけ借金をして現金で積んでおくことで、リスクなしの2%の利ざやを稼ぐだろう。

だが課税をうまく使うことで、政府は税収を得ながら景気を刺激する事が可能である。これは実質的に金利マイナスにする政策であり、こうした「マイナス金利政策」は今後検討に値しよう。

マイナス金利は、ケインズが『一般理論』で紹介した、シルビオゲゼルドイツ人経済学者)の紙幣に対する印紙税構想として知られている。ゲゼルはお札の裏に印紙をはる欄を多数設け、毎週印紙をはりつけないとお札が流通できなくする事で現金に課税することを提案した。

今日では、ATM自動販売機が普及しており、お札に印紙を貼って流通させるのは非常に不便である。また現金のほかにも、政府保証のある預金クレジットカードデビットカード電子マネーなどが支払いのために広範に使用できる。このため現金だけに課税しても、支出を刺激する効果は限られている。しかし、課税方式を変えることで有効になる。

たとえば、お金使用期限をつけるか、使用しなければ価値が下がっていくようにすればよい。どんなに物価が下がっていても、家電量販店ポイント航空会社マイレージは、使用期限が切れる前に使うのと同じである。


そこで、政府価値保証している現金預金国債などの金融資産に対し、デフレによる実質価値上昇分を課税すればよい。同じ金額の安全資産で購入できる財・サービスデフレで増加する分を、税金政府が吸収するのだ。

課税対象日本政府が直接間接に元本を保証する円建ての金融資産であり、国債地方債預金現金などである。

現金は、色を変えるなどして新券を印刷し、旧券と交換するとき手数料を取れば良い。

そうすれば、課税対象の安全資産から、株式社債耐久消費財不動産などに資金がシフトし、景気は刺激される。銀行も課税される日銀当座預金を減らし貸し出しを増加させるだろう。政治的には大きな困難を伴うだろうが、税率二%で三十兆円以上の税収が見込める。これは全国民に二十万円現金を支給してもおつりが来る金額になる。

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