2007-09-10

元彼と旅行してきた

元彼とは同い年で、二十歳の頃から7年間付き合っていた。

お互いの親にも紹介をして、このままこの人と結婚すると、思っていた。彼もおそらくそう思っていたと思う。

付き合って五年目の時、実家の父が癌だと知らされた。

それまで父に頼りきって生きてきた母は混乱し、とても一人にしておくわけにはいかなかった。

私は実家へ戻り、彼とは遠距離恋愛が始まった。

電話口で、いつも彼はすまなそうに、仕事が忙しいことをそれとなく口にする。

私の都合でこうなったのだから、彼が申し訳なく思うことはないのにと私はいつも思っていた。

そんな彼が、逆に私には苦しかった。

彼に余計な心配をかけたくなくて、悪くなる一方の父の容態についてもあまり詳しくは言わず、当たり障りない近況だけを伝えた。

私が彼の前で取り乱し泣いたのは、父が死んだという連絡の電話をしたときだけだった。

彼はすぐに来てくれて、お通夜お葬式の手伝いをしてくれた。

彼が来てくれて本当に嬉しかった。

私ひとりでは、すっかり弱り切った母を支えることもできなかったかもしれなかった。

彼からは、三回プロポーズをされた。

一回目は私の父が癌だということがわかったとき。彼は「花嫁姿を見せてあげよう」と言ってくれた。

嬉しかったけれど、私はすぐに頷くことができなかった。

なぜかはわからない。

父の死が妙にリアルに迫ってくるような気がしたのかもしれない。

彼の誠実さをわかっていながら、そんな言葉尻をとらえていちいちひっかかるる自分も嫌だった。

結局、父が「東京に娘はやれない。」と言ったことで、この時は話が終わってしまった。

二回目は、父が亡くなって一年が経った頃。

父がいない日々にまだ馴染めない母をひとり置いて、東京に行くことはできないと思った。彼にもそう言った。

彼は「お母さんも東京に呼んで、一緒に三人で暮らそう」と言ってくれた。

でも、今の母が、新しい土地で新しい生活に順応できるとはとても思えなかった。

結局、母が「地元から離れることはできない。」と彼に言った。

そう言われては、彼も引き下がるより他なかったのだろう。話は終わった。

私は二度も、逃げた。母を説得することも、彼にきちんと向き合うことからも。

そのうえ、彼がこの土地へ来て一緒に暮らすと言ってくれれば…などとかすかに期待している。

そんな自分が許せなかった。

これ以上彼を振り回すわけにはいかない。

私が彼との未来を諦めればすむことだった。

私のこれからは、この故郷にあるんだ、そう言い聞かせて彼のことも東京のことも、忘れようと決心した。

私が唯一した決断だった。

三回目、これが最後のプロポーズになった。

彼が突然、話があるからこっちへ来ると電話をくれた。

いつもより真剣な声色で、すぐに結婚のことだと察しがついた。

私は言った。他に付き合っている人がいる、と。

私と彼は、7年目に、終わった。

その後、3年が過ぎた。お互い30歳になっていた。私も彼も、その後新しい恋人と付き合い、同じく別れていた。

彼が言った。「旅行に行こうか?」

私は言った。「Hなしで友達としてね。」

たった一泊、でも本当に楽しい旅行だった。不思議なほど、自然に彼と一緒にいられる自分がいた。

冗談を言い合って、素直に笑って、昔みたいにお酒を飲んで。お互い30歳だねと笑いあった。

彼はそのまま、帰っていった。彼の乗る飛行機をデッキで見送りながら、昨日の夜の言葉が、ぼんやりと思い浮かんだ。

「お互い30歳だね」。

若い頃…彼の隣で無邪気に笑っていた頃は、30歳の自分はもっと大人だろうと想像していた気がする。

実際は、何も変わっていない。

私はいつまでも優柔不断で、他力本願で。

たったひとつ、自分でした決心でさえも、こんなふうに揺らいでしまう。

思わずこぼれた涙を慌てて拭き取って、私は空を見上げるのをやめた。

私はいつでもいくじなしで、二十歳の頃と変わらない子どものままで。

でも仕方がない、それが今の私なんだから。

彼と旅行して、そのことを思い知った。たぶん、そのための旅だったんだと思う。

過ぎた時間は取り戻せない。

あの頃のように振る舞えたのは、私たちが遠く離れてしまったからだ。

彼の乗った飛行機が雲間に消える時、一瞬光ったように見えたのと同じだ。

デッキに吹く強い風が、不意に私の体を強く煽った。

倒れそうになるのは、隣に彼がいないからじゃない。

風に逆らおうとするからだ。

私は出口へと踵を返した。風は背中を押してくれた。

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    http://anond.hatelabo.jp/20070910141025 おお!

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    逆の立場バージョンを読んでみて ・ひょっとして別の彼氏ができていると言うのはやさしい嘘なのではないか ・最後の旅行で元に戻る事を拒んだのは一つ目の件で嘘をついてしまってい...

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    逆バージョン http://anond.hatelabo.jp/20070910141025

  • Re: 元彼と旅行してきた

    角田光代風小説の練習。

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    まあ、どのくらいの数の増田がそういう彼女をゲットできるかは別にして、 「増田ではまったくないんだが、しかし自分の書き込みを肯定的に黙認してくれて、  その上で全く知らない...

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      • anond:20080805200518

        「ボードゲームオタが非オタの彼女に世界のボードゲームを軽く紹介するための10本」 したかったなー。終わっちったか。

        • http://anond.hatelabo.jp/20080805201046

          それは俺が見たいから是非やってくれ。 レーベンヘルツとかカタンとかプエルトリコとかあの辺を無理矢理紹介するのはちょっと見たい。 (無論ボードウォーゲームでも可)

          • http://anond.hatelabo.jp/20080805201521

            報告まだでした。 http://anond.hatelabo.jp/20080805205151 こんなもんでどうでしょうか。 私のこういう意図にそって、もっといい10本はこんなのどうよ、というのがあったら 教えてください。

          • [neta] オタが非オタの彼女に軽く紹介する10のボドゲ

            そういえば書いてたんだった(コピペに20分くらいで手を入れれば誰でも書けるし、くだらないので参考にしないでください)。500本くらい遊んだ人ならもっと適切で面白いチョイスができ...

      • http://anond.hatelabo.jp/20080805200518

        頑張れ!妖怪モトマスダ! もしかして「軽く紹介するための10本」シリーズは全て目を通しているのか! どんだけオタクだよ!かっこいいな! その二つを書いた人じゃないけど、ネタを...

    • http://anond.hatelabo.jp/20080805014559

      ちょっと前のやつだけど、これ見てちょっと驚いた。 この中の5つのエントリ、自分が書いた奴だった。 地味に嬉しかった。

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