エスカレーターがなくなった。
ふざけるんじゃないよ。このエスカレーターがなければどうやって狸小路に行くのか。あれか。モユクか。モユクを通れと言うのか。それともアレか。パチンコ屋の中を通って行けと言うのか。それもいいだろう。いい。それもいいが、それもまたいいのだが、違う。あのエスカレーターを母と共にウキウキしながら登った9つの記憶がある。アニメイトに行った。あのエスカレーターをプリクラを眺めながら降りた女子高生の春がある。コナミの帰りだった。あのエスカレーターが私をナンパから救い、あのエスカレーターが私を冬の寒さから救ったのだ。狸小路の一本道を駆ける冷たい風から私を。まぁエスカレーターに乗ってる間は全然後ろから風くるけども。実際救ったのはポールタウンみたいなとこあるけども。
でもさ、うちの父はあのエスカレーターの斜め向かいの喫茶店でバイトをしていたし、うちの母はあのエスカレーターの前でビラを配っていたんだよ。私はモユク経由でもパチンコ屋経由でもなくあのエスカレーターがよかった。あのやったら傾斜が急な階段と共にあるエスカレーターがよかった。
ずっとあると思ってたよ。
なくなったのか。そうか。悲しいな。いいよ。わかったよ。モユクから狸小路に行くよ。でもいつかまた、こんな風にモユクはなくなるのかもしれない。たくさんの思い出を残して。寂しいな。