湿り気のある風が吹いてきて、なぜか潮の匂いが漂う。
河口に近い地域とはいえ、風向きで海の空気は届かないだろう。きっと付近の川辺かどこかに、バクテリアの死骸が溜まり、腐敗の匂いを漂わせているのだ。
腐敗の匂いは海の匂いに似ている。故郷の浜辺の、朝に漁師が小さなボートで水揚げしていた、魚の匂い。餌のありかを嗅ぎつけて、いつの間にか集まる海鳥たちの、興奮した鳴き声。網を浜辺へ引き上げるために、声を合わせる漁師たちの声。薄明るい海辺の、静けさとはかけ離れた風景に似ている。
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