犯人は、スタジオ放火の行為の一歩手前にいた。
そのとき眺めた久美子の原画は、燦然ときらめく幻の久美子と、原画の中の現実の久美子が一致し、たぐいない虚無の美しさにかがやいていた。
犯人はスタジオに火を点けた。
燃え盛るスタジオの中で犯人は突然、女子トイレで死のうとするが扉はどうしても開かなかった。
拒まれていると確実に意識した犯人は、戸外に飛び出し駅の方へ駆けた。
火の粉の舞う曇天を、膝を組んで眺めた犯人は煙草を喫み、ひと仕事を終え一服する人がよくそう思うように、「生きよう」と思った。
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