大きな箪笥の抽斗がきしきしと音を上げる。裏切るように一時間で音がやみ、余った酒の後始末に困った。
次の日は雲ひとつなく晴れ渡り、軽い足取りで行きつけの洋品店へ出向いた。次に小さく頷き、銀食器を買いに街へ向かった。また小さく頷き、質の良いオーディオ製品を求め歩いた。
瓶とグラスを揃え、大きな箪笥の抽斗がきしきしと声を上げはじめたから不器用にコンポを操ってみた。弦楽器や管楽器の豊かな重なりは官能的であった。縷縷と脈打つ拍子に心酔し歓びの境地に達しているとき、箪笥の頬に伝う涙を見ていた。
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