もうすぐ、父が死ぬ。
父は、ろくでもない男だった。
そんな父のことを、よく思ってはいなかった。
重度のアルコール依存症だった父は、末期の肝硬変と診断された。
父はきっぱりと酒をやめた。毎晩一升瓶が空になるほど飲んでいたが、
診断されてからは一滴も飲まなかった。
離れていた家族は、父の元へ戻った。
忘れていた。
父は、優しい男だった。
父は、僕のことを大事にしてくれていた。
笑顔を与え、僕を何よりも案じてくれていた。
対立することもあったが、父は僕のことを愛してくれていた。
僕は父を許した。
本当は、大好きだったのだ。
ろくでもない男だが、僕達に見せた愛情に嘘偽りは無かった。
気持ちを伝えた。
小っ恥ずかしいことを、何回も何回も伝えた。
溢れた涙は、少しだけだった。