定員が注文を確認し、食券の半分をもぎっていく。
夕飯どきで忙しいのだろう。なかなか僕の牛丼は出てこない。
暇つぶしに店内を観察すると、対面にキレイな女性が座っていた。
ちょっとくたびれたスーツ姿に、白い肌。後ろで束ねきれない前髪が顔にかかっている。
その赤い唇にご飯を運んだ後、口を手で抑える姿も可愛らしい。
「マスター、あの娘に生卵を」と僕は言った。
店員が彼女のところに生卵を持っていく。
彼女は初め驚くが、店員の説明を受け、こちらを向き、軽く会釈をする。
僕は、いつしか受け取った牛丼のどんぶりをもちあげ、彼女を見つめながら
「君の瞳にいただきます」
とつぶやいて、箸を二つに割った。
その頃、近くのすき家では、強盗が「金を出せ」と叫んでいた。