2011-04-25

東野圭吾『天空の蜂』 おもしろいよ

「問題はそこだ」三島は頷いた。「原発が大事故を起こしたら、関係のない人間も被害に遭う。いってみれば国全体が、原発という飛行機に乗っているようなものだ。搭乗券を買った覚えなんか、誰にもないのにさ。だけどじつは、この飛行機を飛ばさないことだって可能じゃないんだ。その意思さえあればな。ところがその意思が見えない。乗客たちの考えがわからないんだ。一部の反対派を除いて殆どの人間は無言で座席に座っているだけだ。腰を浮かせようともしない。だから飛行機はやっぱり飛び続ける。そして飛ばす以上、俺たちにできることは、最善を尽くすことだけなんだ。たとえば湯原、おまえはどうだい。日本がこれから原子力に頼っていくことに賛成か。それとも反対か」

 突然詰問され、湯原はたじろいだ顔になった。

「難しい質問だな。ずるいといわれるかもしれないが、原発はやむをえないが、事故は決しておきないようにしてもらいたいというのが正直な気持ちだな」

「ずるいな。それは本当にずるい答えなんだよ。ほかに交通手段がないか飛行機に乗るが、絶対に事故を起こすなといっているようなものなんだ。乗る以上は覚悟を決めてもらいたい。もちろん事故防止のため、我々はできるかぎりのことをする。だけどそれは絶対じゃない。予期しないことが起きるのは、今度の事件が最後とはかぎらないんだ」

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