2013-12-13

村上春樹桃太郎

 昔、とは言ってもだいぶ昔のことなのだけれど、僕はある町(名前もない小さい町だ)に妻と二人で暮らしていた。

 多くの夫婦がそうであるように、僕たちの間にもいささかの問題があった。

 他人からしてみれば些細な問題かもしれないのだけれど、妻はよくそのことで自分自身を責め、彼女が本来持つ良さを損なっていたと思う。それは2月に突然降る冷たい雨のように僕たちを苦しめた。

あなたはどう思うの?私たち子供がいないことについて」と妻が言った。そのとき僕たちはボンゴレビアンコといんげんのサラダを食べ終え向かい合って座っていた。テーブル越しの妻はなんだかいつもより疲れているように見えた。

「ねぇ、最初に言っておきたいんだけど」と僕は言った。

「僕は特に子供が好きじゃない。それに子供がいないことは夫婦の自由な選択の結果であって、君が苦しむべき問題じゃないと思う」

 妻は頬杖をついて僕の方をじっと見つめ、(あるいは僕の後ろにある流氷写真を見ていたのかも知れない)静かに微笑んだ。まるで、そんなことを聞いたんじゃないという風に。

明日、川に行こうと思うの」と妻はそっと言った。

「悪くない。いつ出発する?」と僕は言った。

「ごめんなさい、私、一人で行きたいの。あなたは山に行って」

オーケー」僕は早朝のマクドナルドの店員のように努めて明るく答えた。

村上春樹「桃を巡る冒険」)

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  • http://anond.hatelabo.jp/20131213131651

    たくさんブクマで読んでもらえて嬉しい! でも↓の方には完敗だーーーー。まだまだ修行が足りないっすな。 http://paruhara.com/?p=55

    • anond:20131213171918

      いや、こっち(今回の増田)の方がずっといいよ。村上春樹のパロディとして成立している。 比較対象(以前の方)は、全然ダメだ。村上春樹の雰囲気がまったく欠落している。下手く...

    • http://anond.hatelabo.jp/20131213171918

      「ねえ、元増田ってブクマされるところを想像しながらあれやるわけ?」  三杯目のビールを飲みながら緑は言った。 「まあそうだろうね」と僕は答えた。「Disられるところを想像しな...

      • http://anond.hatelabo.jp/20131213205437

        いわゆるSSのマスターベーション度は最強だね 俺がやってる書き捨ての駄文なんざ足元にも及ばない まあ及びたくはないんですけど

記事への反応(ブックマークコメント)

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