2010-08-21

日本経済新聞春秋』2010/8/21付

静岡県熱海といえば東京の奥座敷。その温泉町を、この暑さの中、携帯ゲーム機を手にした男性の1人客が行ったり来たり。2カ月ほど前に発売されたある恋愛ゲームのファンだという。作中で熱海デート舞台になっているのだ。

▼画面の中と同じ風景が目の前に広がるから、本当にデートをしている気分を楽しめる。作中でヒロインが着る老舗ホテル浴衣はかなりの売れ行きだそうだ。地元商店街なども協力している。各所に記念スタンプを置き、みやげも作った。ゲームを通じた新しいまちおこしの手法を編み出しつつあるとも言える。

映画などの撮影地を訪れることをロケ地巡りやシネマ観光などと呼ぶ。近年はマンガアニメゲームに描かれた場所を訪れる人も多い。映像作品や小説、歌などを英語コンテンツと総称することから、各種作品の舞台を訪れる旅をコンテンツ観光と呼び、文化意味経済効果などを研究する大学も登場した。

▼昨年中国でヒットした映画舞台北海道には今も大陸から観光客が大勢訪れる。優れた映画監督ゲーム作家の手にかかると、ごく日常的な風景ですら突然、輝きを増す。ふつうの案内書などより、人を呼ぶことがあるのもうなずける。日常を逃れ、絵空事の中に入り込みたい。かなわぬ願いが財布を開かせる。

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