2010-07-16

改正貸金業法が始まったので

昔話をしようかとおもう。

改正貸金業法は色々あるけど、年収の1/3を越えて貸し付けてはいけないっていうのが一番大きい。

しかもこれ合算。まあ、普通に考えたらそうだろう。良い事だと思う。

さて、これから書く話は、もう出来ない。改正される前の貸金業法に関わる話だからだ。

特定は色々と面倒だし迷惑かけそうなのでぼかして書く。ある男から聞いた話風に書こうと思う。

ある工場派遣で勤めていた男が、ある日クビを切られた。

工場派遣。そう、つまりは寮住まいから追い出された。

工場勤めで寮住まい手取り15万ちょい。娯楽はネットとはいえ、たまに飲みにでてれば金は貯まらない。

運が良かったのは、クビになったのが夏だったことだ。

どうすれば良いか途方に暮れた。さほど危機感がなかったのは、貯金が10万はあったからだ。

しかし、家は借りられない。友達は少なく、迷惑はかけられない。故郷には帰れない。

男はそのとき知らなかったが、親族に頼れずいったん貯金をなくすと、人はすぐホームレスになるそうだ。

漫画喫茶に泊まりながら寮に入れるバイトを探す。

今なら判るが、探し方が悪かったのもあるんだろう。見つからなかった。

金はすぐ底をつく。正確には、底をつきそうになった。

漫画喫茶難民なんて言葉も、まだ現実的な頃だった。

男はすごく怖くなった。

二度と抜け出せないんじゃないか。

たまたまだった。

借りられるはずはなかったが、借りられたらいいなと思ってアパートを見ていた。

びっくりする家賃アパートがあった。ぼろいのに130万円。なんだこれ。

4畳半が2つ。トイレバス別。二階建て。テラスハウスとあった。

いくら二階建てでも築30年オーバーでそりゃないだろと思って目を疑った。

中古テラスハウス物件価格とある。

売り物なのだこの家。たった130万円で。

もちろん今の自分からは望むべくも無い金額だが、それでも家だ。

いくつかのサイトを見て、一着しか持っていなかったスーツクリーニングに出した。

床屋に行った。

そして、消費者金融に行った。免許を持っていたのは運が良かった。

一カ所あたり10万〜15万貸してくれた。全部で40万くらいになった。

その金を元手に、漫画喫茶に本格的に居着くことにした。

スーパーバイトを見つけて、その男その男なりに懸命に働いた。

一カ所あたり1万円〜3万円の返済日。

30万に減っていた所持金から、返済。また幾日か立ち、やっとバイト代が5万入った。

うまくいくかは判らなかったが、ここで25万になった。

うまくいくという根拠のない自信だけが心の支えだった。

所持金が5万になったところで、さらに借りに行ってみた。

「限度額を引き上げませんか?まじめに返していただけているようですし」

あの頃は本当に甘かったのだ。半年経っていないのに。

常に限界まで借りて、毎月一定額で返し続ける。

そして、一年経ったところで、やっと達成できた。

150万の現金テラスハウスは売れ残っていた。

完済まで5年かかった。

バイトも何度かクビになったり、店が無くなったりもした。

それでも、帰る家があることは大きな支えになった。

本当に大きな支えになった。

日本は豊かだ。

節約すれば、毎日シャワーを浴びて自炊をしたところで、食費に電気ガス水道で4万くらいだ。

日雇いバイトだって探せば月に10回ぐらいは見つかる。

生きていくのに、家があればたいした苦労はない。

ほんとうに。

家が無くなるのは嫌だったので、税金もまじめに払った。今も払っている。

立て替えは出来ない。立て直しも出来ない。

築40年オーバーだ。地震にも火事にも弱いだろう。

不動産に詳しい人ならマイナス資産だと言うと思う。

それでも、家があるだけで全く違うのだ。

これである男の話はおしまいだ。

消費者金融を礼賛する気も、借りづらい家を非難する気もない。

ずいぶん多く払った気がする。もちろん、助かったから文句はない。

結構怖い人だったが、色々教えてくれた不動産屋のおっちゃんにもずいぶん助けてもらった。

いまあの男がこうしてあるのは、いろんな偶然や運があったからだと思う。

それでも年収100万以下だったある男に、無謀な金額を貸し付ける金貸しが居たからだというのは事実だ。

その男には出来なかったが、家族が居る人は、親戚が居る人は、仲直りをして頼れるようにしておくべきだ。

日本で家を借りるのは、もの凄くハードルが高い。

たった一人では何も出来ない。保証人になってくれる人に心当たりが居なければ、今から貯金しておこう。

人生は計画的には行かない。せめてお金だけは計画的に。

  • 消費者金融から借りる人の大半が「ある男」氏のように「計画的なご利用」ができる人が大半だったら、そもそも改正貸金業法なんかいらなかったのにな。 今回の法律は本来マーケット...

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