2009-10-13

米価のパラドックス

よく「減反廃止してコメ価格を自由化(=下落)させれば、零細農家コメ生産から手を引いて、

農地が大規模農家に集約されて、コメ競争力が上がる」という経済評論家とか、

事情通ぶっているブロガー」があるが、米価のパラドックスをご存知ないようだ。

確かに、零細農家は、コメ生産は「赤字」である。

減反が廃止されてコメ価格が自由化されれば、零細農家の「赤字幅」はもっと拡大するだろう。

そこまでは表面的な数字で判る事実である。

しかし、赤字幅が拡大しても、「零細農家が、赤字拡大を理由としてコメ生産から手を引く」

可能性は、訳知りなブロガーが思っているほど、多くない。

訳知りなブロガーは、「実際のコメ生産農家の赤字幅」の数値を見て議論していないので、

議論のための議論に陥っている。

で、自分なりに試算してみると、

http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Keyaki/7891/pdf/agri.pdf

0.5ヘクタール未満の零細農家の場合、

「売上」、即ちキャッシュインは、

確かにわずか「62万円」であり、「微々たる額」である。

しかし、「キャッシュアウトする経費」も、

結局39万円程度である。

で、実はキャッシュフローベースでは「22万円の黒字」になる。

農家が赤字」とする農水省統計にはマジックがあって、

家族労働時間を時給換算化した労賃」や

自作農地を借地した場合のバーチャル地代」を

バーチャル経費」として差引いた場合、

「36万円の赤字」になるのだが、そもそも零細農家は、

家族の労賃などを「経費として差引く」という概念を、そもそも持ち合わせていない。

なぜなら、0.5ヘクタール未満の零細農家労働時間は、年間わずか229時間だから。

つまり「週末農業」「趣味農業」であり、

趣味に対して「その労働時間を経費として見るべき」と大上段な意見を述べる方が

アホでありナンセンスである。

なので、仮に米価が半額に30%下落したら、「売上」は

62万円×70%=43万円になるが、それでも「キャッシュベースではトントン」であり、

農家は「赤字」とは認識しない。

つまり、30%程度の下落では、零細農家コメ作りをやめるインセンティブにならない。

50%下落、つまり半減になったら、キャッシュフロー上は「8万円の赤字」だから、

家計簿をきっちり付けている農家のうち一部は、確かに「コメ作りをやめるか・・・」となるが、

8万円程度の赤字というのは、他の副業収入兼業公務員収入)で充分カバーできる額なので、

大半の農家は「半分趣味だから、コメ作りをやめない」のである。

つまり、半分趣味化しているコメ農業は、もはや経済原則によるコントロールが不可能なのである。

しかし、一方の大規模農家にとっては、米価の下げは深刻である。

大規模農家の場合、家族以外の労働力にも頼っていたりするので、

「労賃というのはバーチャルコストではなく、本当にコスト」なのである。

又、借地で農地している場合は、地代も本当のコストになる。

何より、趣味農業じゃなく、「本当に農業をしている」彼らは、公務員収入のような

副収入がないので、米価の値下げが、即農業経営へのダメージになる。

つまり、

経済原則が働かない趣味農業の零細コメ農家が生き残り」

経済原則によって、大規模コメ農家が淘汰される」というパラドックスが生じてしまう。

これは現役農水省キャリア官僚が嘆いていたパラドックスだが、これに目をつぶる

一部経済評論家とか訳知りはてなーは、いかがなものか?

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