当時、ぼくは仕事らしいことをなにひとつしていなかった。
勤労ということからは、かけ離れた生活を送っていたのである。
来る日も来る日も無為の生活を送っていると、
「ああ、働きたい、額に汗したい」
という勤労意欲が湧き上がってくるものなのである。
まして、血気盛んな青年である。
毎日の、入浴や爪のアカほじりでは、どうしても欲求不満になってくる。
例えば道路標識などを、額に汗して引きぬき、今度はそれを肩にかついで、息をきらして
下宿まで運搬する。
やっとこさ下宿の玄関までたどりつき、狭い下宿の廊下を、あちこちぶつかりながら運び
あげ部屋に安置し、吹き出す汗をぬぐうと、
(なにごとかを、なし遂げた!)
という満足感が得られるのである。
勤労の喜びにひたることができる、ということになるのである。
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