2019-10-24

午前七時半過ぎ、麻原の独居房の出入り口にある窓ごしに、いつもと違う刑務官が「出房だ」と声をかけた。

大抵の死刑囚はこの見慣れぬ顔と声で自分運命悟り顔面を蒼白にしてうなだれながら刑務官の指示に従うか、大声を出したり暴れたりして抵抗するか、いずれもいつもと違う行動に出る。

麻原は二人の刑務官に両腕を抱えられ、「チクショー。やめろ」と叫びながら独居房から出ると、三人の警備担当者身体を押されるように両側に独居房が並ぶ死刑囚舎房の通路を歩き、長く薄暗い渡り廊下を通って、何の表示も出ていない部屋の前に到着した。

そこで待機していた刑務官二人の手でギギッと妙に響く音を立てて扉が開けられると、その前には分厚いカーテンがかかった狭い通路があり、カーテンに沿って先に進むと急な階段が現れ、上で別の刑務官大勢の人が待っている気配が伝わってくる。

ここまで来ると、この先に何があるのか察する死刑囚が多いのだが、麻原はブツブツと小声で何か言うだけで、四人の刑務官に押されるように階段を上がった。

カーテンの下から流れる冷たい風が頬を撫でたか、麻原はブルッと身体を震わせた。実はカーテンの向こう側は刑場の地下室、つまりロープで吊り下がった遺体を処理する場所であり、冷たく血なまぐさい風が吹くのも当然なのかも知れない。

階段を上がった横にある部屋には、五人の男たちが待っていた。

麻原には誰が誰か分からなかったが、正面に拘置所長、その後ろに検事総務部長ら拘置所幹部がいて、横には祭壇が設けられ、教誨師僧侶も立っていた。

松本智津夫君。残念だが、法務大臣から刑の執行命令が来た。お別れだ」

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