2011-04-02

もしも

彼は美容師になった。何気ない理由だったはずだ。

専門学校は何もかもが新しく、目に映るの全てに有り余る程の情熱を注いでいた。

そんな彼を愛した。彼の持つ全てが愛しかった。

楽しい時というのは瞬き程の速さで過ぎていった。

近くから見た彼は光を放ち、私には彼が作る未来、彼と私で作る未来は大きな物に見えていた。

5年働いてその後は独立して、子供は二人ぐらいで男の子女の子でそれでそれで。

二人でもしを並べるのは楽しかった。

一年半が経った時だったと思う。彼が仕事を続けるのが辛いと泣いた。

特別なアドバイスが出来るはずもなく、ただ聞くだけしかできない私は、夜彼が寝ると声を殺して泣いた。

あんなに輝いていた彼が。あんなに未来を夢見た彼が。

彼は美容師を辞めた。そしてほどなくして私たちは別れた。

並べた「もし」が多ければ多いほど、比例して痛みは大きくなるのだろう。彼と出会って、そして別れてやっとそれに気づいた。

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