2009-08-13

最終的な応用方法を、実際的な例で示せ

自分研究者ではなく実践者だと周りにはいつも言っているんですが、それでも論文審査なんかに担ぎ出されてしまうことがよくあります。ちょっと断れない相手からだったのでここのところお付き合いしているのは、論文に加えて面接試験も。

そこで思ったのが、素人自分の専門分野を説明する方法を知らない人が多いということです。

私も、人文系ならまだ畑違いでもだいたいの方向は分かるのですが、理系の、しかも化学とかバイオになると、もう全然分かりません。申請者たちは、面接突破するにはこのズブの素人自分研究価値を分からせなければならないのですが、それに成功できる人が本当に少ないんですよね。

価値が分からないことの大きな理由は、彼らの言う「こんなすごいこと」が理解できないからです。「この研究に成功すればナンチャラホンチャラな物質がホゲホゲ反応を起こすようになるんですよ!」なんて誇らしげに言われても、そのナンチャラホンチャラもホゲホゲも理解できないんだからしょうがない。

今日面接した一人も、そんな感じで話が進んでいました。「もう、聞いてもワケワカラン」というのが本音ですが、そんな顔をしたら失礼ですから真面目には聞きます。

「ふーん。それで、そのホゲホゲ反応はどんな応用ができるんですか」

「それがすごいんですよ。ホゲホゲ反応を、ピロピロパラパラ物質に応用するとトントコチャンチャカな物質ができるんです。すごいですよね!」

「ふーん。それで、そのトントコチャンチャカな物質は、どんな応用が(以下略)」

というような応答が何度かあり、「結局、何の役にも立たないのか?」という疑念がほぼ真実であると認定されようとしたとき、彼が一言ぼそっといいました。

「まあ、要するに石油が作れるわけです」

「なんだって!」とその場にいた面接官は私も含めて同時に叫びました。

「要するに君の研究が成功したら石油を人工的に作れるのか?」

「いえ、石油を作るには私の研究だけでは不十分です。石油を作るには、さきほどもご説明したとおり、ホゲホゲ反応をピロピロパラパラ物質に応用して、トントコチャンチャカな物質を生成したり、それをペコポコパコピコ物質(中略)するような工程が必要です」

その受験者は、「何でそんな当たり前のことを聞くのか」と訝しげな眼でこちらを見ていました。でもね、あなたにとっては「当たり前なこと」が、普通の人にはわからないんですよ。普通の人に分かるようにするには、それが最終的にどう応用されて、その面接官の暮らしがどのように向上するのかを具体的に説明しなければなりません。

たとえば、寿命が三年延びるとか、煙草を吸ってもガンにならないとか、せめて消しゴムカスが少なくなるとか、そういうレベルでもいいので、具体的な応用例を教えて欲しいんです。

ま、そりゃ分かりますよ。基礎研究とかだったら、具体的にどう役立つのかなんて説明しにくいってことぐらいは。でも、しょうがないんですよ。面接官がいつも必ず自分研究テーマに関心を持ってくれるなんてことはありえません。私だって自分からお願いしてカーボンナノチューブの作り方とかグルコミン塩の反応の変化とか聞いてるわけじゃないんです。

どうしようもない事実として、申請者たちは理解して欲しい。残念ながら、そういうズブの素人があなたの研究計画の価値を判断しなくてはならないことは、往々にしてあるのです。それは私だって変えられないし、ましてや申請する側には絶対に変えられる事態ではありません。だから、事実として、まず受け入れて欲しいんです。研修者が読む論文に書く形そのままでは、研究資金はもらえないんだってことを。

そういう場合に注意して欲しいことは、それが何の役に立つのか、ということ。そして、それをできるだけ具体的に、生活に結びついた形で表現できるようになるということ。

ま、石油が作れるといったって、それが石油以下のコストで作れるのかとか、そもそもその他に必要な研究も進展するのかとか、そういういくつもの問題をクリアして、初めて実用になるんですけどね、でも、「石油を作る」という方向性も分からないまま、ホゲホゲ反応ができるということだけで資金を提供できる人はなかなかいないんじゃないかな、と思うわけですよ。

言い換えると、役に立たない研究なんかしなくてもいいんじゃないか、というのが研究者ではない社会の受け取りなんです。

増田さんたちにはいつもお世話になっているので、今日は皆さんのお役に立てるように、一つだけアドバイスしてみました。皆さんの研究資金確保に役立ってくれることを祈っています。

  • http://anond.hatelabo.jp/20090813064739 それが分かってないクズみたいな研究屋は、一部の上位クラス大学のクズと下位すぎるクラスの大学のクズだろう。 今時の無駄に苦労してる研究屋はある...

  • こういう明らかな歪み(何もわかってない人間が審査する云々)はいずれ突然大爆発を起こして社会に破壊的な打撃を与えたあと是正されざるを得なくなると思う。

  • 事業をする立場から見ると、最近の研究者・研究所ってのには以下の2パターンがあって、 よくわからない研究・技術を、訳のわからない価値観・言葉で主張する人(これはまあ従来...

    • でも面接官側にも馬鹿がいて、自分の仕事放棄してマネタイズする方法まで研究者に要求してくる奴もいるんじゃない? 研究者側から見れば、相手が馬鹿なのかそうじゃないのかは分か...

  • 「まあ、要するに石油が作れるわけです」 「なんだって!」とその場にいた面接官は私も含めて同時に叫びました。 「要するに君の研究が成功したら石油を人工的に作れるのか?...

  • ま、そりゃ分かりますよ。基礎研究とかだったら、具体的にどう役立つのかなんて説明しにくいってことぐらいは。でも、しょうがないんですよ。面接官がいつも必ず自分の研究テーマ...

  • これさ、要は元増田に『面接官の職務を正しく遂行する』インセンティブが全く与えられてないことが原因なんじゃね? プロの面接官だったら『組織/社会の利益になる研究に投資する』...

  • 私は普通の人で、私の言う「普通の人」はホゲホゲが分からないんだ、っていうのを相手に伝えるのがコミニュケーション力()笑なんじゃないの? コミュニケーション力ないなー

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん