2007-12-15

ある非モテ男の心の内

俺は非モテである。年齢=彼女いない歴魔法使いまであと僅か。俺よりモテない人間リアルで目にしたことなどない。

そんな俺から見てのことだが、はてな界隈での非モテに関する言われようは偏りすぎだと思う。「ママを求めているだけだ」だの「処女オタ」だの「ミソジニー」だの「自分こそが恋愛至上主義者」だの。「喪男道」の「覚悟」というあまりにもわかりやすいキャラクター存在したためにこの評価は定着してしまったような気がするが、現実には非モテはそこまで屈折したものではないと思う。むしろ、屈折しなさ過ぎたために、青臭いともいえるやり場のない思いを抱え込んでしまっているのが非モテなのではないだろうか。少なくとも、俺の場合はそうだった。そのことを、俺個人の心理描写として少し書いてみたい。

俺は兄弟含め親戚中男ばかり、そして中高は男子校大学工学部職業も同様に男ばかりの環境。そのような俺にとって同年代の女性とは、学生時代のバイトサークルなどの、彩りのない「日常」を離れた「非日常」的環境以外には接点がなかった。いきおい、頭の中の「女性」像はいっときの楽しい思い出と結びついてやたらと美化された。

テレビ雑誌の類を一切見ない俺にとって「恋愛」というものは「ロミオとジュリエット」「若きウェルテルの悩み」などの文学作品などを通してしか知らないものだった。俺にとって恋愛とは極端に純化されたもので、命を賭けてさえ惜しくないものであり幸福の極致であり、そして何人たりとも冒涜することあたわざるものだった。まして、体の関係を持つなどということは想像を絶することだった。そんなことは、相手に一生を誓い合っていなければできないこととしか思えなかった。なぜって、それは心にも体にも不可逆的な変化をもたらすことなのだし、これ以上ない秘密を他人に知られてしまうことなのだ。

だから、恋愛なんて自分の身近な世界では起こるはずのない、奇蹟にも等しいものだと思っていた。まして自分の身に起こるはずがないとも。一生に一度そのような機会があれば良い方だとも。現在もこの感覚は変わっていない。だからこそ、仲睦まじいカップルを見ると心底羨ましかった。こいつらは、誰もが一生嫉むような幸せを、俺と同い年にして既に手に入れているのだなあと。二人だけの間にしか存在しない一つの文化をこれから一生かけて紡ぎ上げていくのだから、それ以上の稀有な体験があろうはずもない、と。

あるとき、そんな俺も誰かに恋心を抱いてしまうということがあった。既に二十歳を過ぎていたかもしれない。本当の恋などというものは一生に一度しかできないものだと思っていたから、一夜にして起こった身辺状況の急展開に戦慄した。ここでどうするかが俺の一生の幸福と不幸を分ける、と!

だがその後どうすればいいかまるでわからなかった。女性というのはあまりにも未知の存在だったから、表面的な会話以上となるとどうしてよいかまるでわからなかったのだ。一方で、世間では「ストーカー」や「セクハラ」が問題になっている。フェミニストに言わせると「性的関心を表面化することは性暴力」なのだそうだ。だとすると、どうして接近すればよいのかわからない。表面的な会話を積み重ねているうちに、向こうが俺に惚れてくれるのを待つべきなのか?この、不器用で不細工で口下手な俺に?そんなの、奇蹟を期待するに等しいことじゃないか!

結局、俺にはどうすることもできなかったのだ。言うまでもなく、その子は他の男がかっさらっていった。こともあろうにそいつは俺の親友だった。そいつはいい奴なのだが、舞い上がると周りが見えなくなるのが欠点だった。そいつは俺の恋心を知っていてものろけ話をやめられなかった。ご丁寧に、その子を家に連れ込んだだのなんだのかんだのという話まで大声で話しまくった。

俺はもはや、自分より不幸な人間がいるとは考えられなかった。周囲を気遣う余地もなく、悲鳴を上げながらその場から外に飛び出していった。そしてその後、たっぷり一年間引きこもった。その間は、大学にもほとんど行かず、ほとんどネットばかりやっていた。「非モテ」という同類がいることに喜びを覚えたのだ。「はてな」に書き込んだりしたこともあったかもしれない。だが、非モテは甘えだのミソジニーだのと罵倒されて各個撃破されていくのを見ると、ネットにも救いの場はないのだということがよくわかった。

その後紆余曲折あって、やっと落ち着きを取り戻した。俺がどうにか落ち着くことができたのは、恋愛とか世の中というのは俺が思い描いていたほど美しくはなく、もっと身も蓋もないものだということをどうにかうかがい知ったからだ。いつまでも純粋でなどいられないのだし、純粋さというのはよいことばかりではないのだ。そういうことを普通は、恋愛という関係を実際に作り上げながら知っていくものなのかもしれないが、残念ながら俺は「恋愛をできなかったこと」によって知ることになってしまった。それを知ってしまった俺はもはや、恋愛に夢中になるという機会を永久に失ってしまったのだろう。今となってはあきらめはついているが、ときどき思い返すと空しくなることもある。

  • 「魔法使いまであと僅か」な人間が大学生の頃は まだネット上に今のような「非モテ」という概念は無かった筈だけど。

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