禅智内供の乳と云えば、池の尾で知らない者はない。長さは五六寸あって鳩尾の上から臍の下まで下っている。形は元も先も同じように太い。云わば細長い腸詰のような物が、ぶらりと胸のまん中からぶら下っているのである。
五十歳を越えた内供は、沙弥の昔から、内道場供奉の職に陞った今日まで、内心では始終この乳を苦に病んで来た。勿論表面では、今でもさほど気にならないような顔をしてすましている。これは専念に当来の浄土を渇仰すべき僧侶の身で、乳の心配をするのが悪いと思ったからばかりではない。それよりむしろ、自分で乳を気にしていると云う事を、人に知られるのが嫌だったからである。内供は日常の談話の中に、乳と云う語が出て来るのを何よりも惧ていた。
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