2022-12-02

一杯のカニ

白いお皿に乗った、真っ赤に茹で上がった小さなカニ

ほんの数日前まで、こいつは海に生きていて、その腹に宿した子をどっかに産み落とすつもりだったのだろう。

茹でられてすっかり濁った緑色つぶらな瞳が妙に可愛らしい。だからさっさと裏返す。

 

親指をかけてカニの顎をゴキッっとやって、胸元から引きはがして、つぶつぶとした食感の卵を味わう。

左右の足をまとめて持って内側に折り曲げ、根元からむしる。

箸に持ち替えて内蔵の赤いのと緑のと白いのをごちゃまぜにして頂く。

脚をばらして、その根元を歯で噛みきりふくらはぎを太ももに突っ込んでその身を堪能する。

なにもなくなった甲羅の中に脚の残骸をぽいぽい放り込んでいく。

脚の根元の固いところを歯で噛み砕いて、中の身をカニの親指の爪でほじくる。

 

時期になると、毎年カニを食べる。

命を頂いて生きているということを、そういう生臭いところを見なくて済むように社会の分業はなされていて。

諭吉樋口野口がひた隠しにする、命を裁かない労働で得た金で、誰かが捌いてくれた切り身を買って。

 

一杯のカニに万のいただきますを感じる日。

カニ、今年もうまかったよ。ごちそうさま。

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